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2012年 05月 14日

第6回〜退蔵院ふすま絵プロジェクト 〜

前回(第5回)の撮影から5日。
春の穏やかな風が心地よく吹き抜け、肌を優しく撫でる5月1日の夜。
闇に包まれた妙心寺内の石畳を明るく輝くお月様がテカテカと照らしている。
境内のお堂も月の光に照らし出され、陰影を際立たせている。
そよぐ風に揺られ、あちこちに植えてある大きな松の木はざわざわと音を立てながら夜の演奏会だ。
そんな妙心寺境内の中を進みながら「妙心寺退蔵院ふすま絵プロジェクト」の絵師である村林さんを撮影するため、制作現場へと足を運んだ。

妙心寺退蔵院ふすま絵プロジェクトの概要はこちら→ http://painting.taizoin.com/j/

制作現場に入ると、ふすま5面が畳の上に寝かせられておりそのふすまの前で村林さんが座っていた。

「あ、吉田さんこんばんわ〜」

と柔らかな表情で迎えてくれる彼女。
前回よりもどことなく元気な様子だ。

「吉田さん、これ見て下さいよ。これ買って来たんです」

と言って村林さんが見せてくれたのは、大きなスケッチブックだった。
それを開くと鉛筆で描かれた鳥や虫や花が姿を現した。

「わたしこういう大きなスケッチブックが前から欲しくて、ついこの間見つけたんで買ったんですよ〜」

と言う彼女の表情はとても嬉しげだ。

「小さいスケッチブックだとダメなんです、わたしの場合。大きなものじゃないと。のびのびと気持ちよく描けないんですよね」

その言葉通り、その大きなスケッチブックに描かれた鳥や虫や花達は自由な動きと伸びやかさがあり、村林さんが楽しんで描いているのが伝わってくる。
何よりその絵の説明をしてくれる村林さんの表情がいい。
そしてその表情が前回の撮影で訪れた時の表情とは全く違う。前回の記事はこちら
それは彼女が彼女の中に抱える「葛藤」から半歩前進したからだろう。
いや、もしかすると半歩すらも前進していないのかもしれない。
しかし彼女の中で今宵の月のように何か淡い光が「葛藤」という闇の中に見え始めたのかもしれない。
その淡い光はきっと更に光り輝き、彼女の足を一歩二歩と進めてくれるに違いない。
そしてその兆しが彼女の表情とスケッチブックに描かれた絵に現れていたので、僕は少し安心したのである。

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話が一段落すると村林さんは立ち上がって、

「さあ、描き始めようかなぁ。あ、その前にアイス食べていいですか?吉田さんも食べます?」

と言って冷蔵庫に向かっていく。
そしてバニラアイスを持って来て何とも幸せそうな表情で頬張り出す村林さん。
下手なグルメレポーターなんかよりもよっぽどおいしそうに、嬉しそうに食べる。
こんな時の村林さんは本当に無邪気な子どものようで、畳の上に広げられているこのふすま絵を描いた本人とはとてもではないが思えない。

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「ああ、おいしかった!」

アイスを食べ終えた村林さんは満足そうな表情を浮かべながら意気揚々と筆を取り、ふすまに向かい始めた。

その瞬間、つい先程まで現場を包んでいたほんわかな雰囲気は消え去り、変わりにピーンと張りつめた空気に包まれ、静寂が支配する。
村林さんはその静けさの中に身体を埋没させながら、ふすまの中に彼女のイメージを写し取っていく。丹念に、丁寧に、情熱的に。
筆はよく動き、忠実に彼女の意思をふすまの中に反映させていく。

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僕は村林さんの制作の様子をじっと眺めながら、はるか昔に存在したという「絵師」達のことを想った。
「絵師」達は時の権力者である、大名や寺社などに乞われてふすまや屏風や天井などに絵を描いた。
彼らの「仕事」は日本文化形成の生き証人として21世紀の今も大切に残され続けている。
そして僕達は博物館や美術館や寺社などでそれらを見ては、

「はぁ〜」

と、感嘆混じりのため息を漏らすのである。
そのため息は「感動」と言い換えても良いだろう。
では僕達は何に感動しているかというと、絵師達の圧倒的な内的世界に感動しているのである。
それは絵師達のエネルギーでありスケールでありイメージである。
そしてそれらは連綿と流れる時間の中で更に凝縮され、重厚さを増し、ある種の「匂い」を放つ。
その「匂い」こそが「生命」である。
だから僕達がため息を漏らす時、実はその絵師の放つ「生命」に反応し、感服しているということなのである。
はるか昔の「絵師」達というのはとんでもない人達なのである。


そして彼らは現代に甦った「絵師」村林さんの姿を見た時どんなことを想うのだろう。
そして、「絵師」村林さんの描いた作品を後世の人間は一体どんな気持ちで眺めるのだろうか。
やっぱり、

「はぁ〜」

とため息をつくのだろうか。
現に僕は感嘆交じりのため息の連続なのである。

5月最初の夜は静かに熱く更けていった。



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by yoshida-akihito | 2012-05-14 19:00 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト


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