News

ysdaki.exblog.jp
ブログトップ
2013年 10月 12日

壽聖院編その2 村林由貴・制作ノート「写真家と絵師」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互に日刊でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今回は村林さんの制作レポートから「写真家と絵師」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。



【村林由貴・制作ノート①】

『写真家と絵師』
絵・文 村林由貴


2013年8月23日、17時頃。

一通のメールが入った。写真家・吉田亮人さんからのメールだ。

吉「今夜行っても大丈夫かな?時間は21時とかはどうでしょう?」

私は少しためらって、返事をする。

村「ちょっと進み具合がわかんないので、後で連絡します。もっと遅い方がありがたいかもです‥。」

吉「了解!遅いのは構わないけど、今日はひとつの区切りとして必ず撮っておきたいのです。」

……。

村「うーん、すみません。お応えしたいのですが、無理かもです。 ~中略~ うち絵が描けなきゃ意味ないんです。その為には今ちょっとひとりにならなきゃ無理っぽいです、すみません。大丈夫になったら連絡します。」

吉「 ~前略~ ほんまの本心を言えば、写真家としては今日の由貴ちゃんこそ写真に収めときたいと思ってます。でもあくまで由貴ちゃん主体やし、由貴ちゃんの気持ちを尊重したいと思ってます。だから気にせず、がんばって!」

村「はい、全部わかっています。吉田さんに撮ってもらえるようにも、自分のためにも、がんばります。また連絡します!」

相手を尊重したい気持ちと、表現における譲れない部分での葛藤と、沁みる優しさと。色んな気持ちが込もったメールだった。



その頃。
時は、明くる日迎える "壽聖院・本堂襖絵完成披露会" まで24時間を切っていた。

「苦しい」。ふいにそう声が漏れた。。

何が苦しいのか、複雑で一言では言葉にできない。
明日完成できる・できない以前に、目の前にはどうしても一人にならなければ描けない、難解な表現ばかりが立ちはだかっていた。

緊張と体力と精神力の限界越えももうずっと続き、疲れが波の様に押し寄せたり、しかしまた穏やかになって…そんな繰り返しだった。

けれど、そろそろコントロール仕切れない自分が破裂してしまいそう。そこをなんとか抑え、静けさや平穏を保つためには、『今ひとりにならなきゃ絵も私も、駄目になる』と察知した。自分だけと向き合う時。

だからどうしても、吉田さんの撮影にすぐにOKと言えなかった。



吉田さんが写す絵師の姿には、フリや嘘は一切ない。制作に入るとお互い一言も話さない。ポーズもとらない。それはずっと前に、2人で話し合ったことだった。

撮ってもらう為に描くのは違う。撮りたいから描いて欲しい訳じゃない。ひとりの人間とその軌跡をのこしたい。それが二人の望む、真の姿だった。

それならば、一瞬でも私がシャッターを気にしては負けであり嘘になるし、ある瞬間を捉え損ねたならば、吉田さんの負けであって。いい意味で闘志を燃やし、しかしそこには『吉田さんなら絶対逃さない』と確固たる信頼も築いてた。
だから私も、自分の表現に入り込めると気がついたのだ。



それでも、8月23日の夕方はOKを出せなかった。。

その一方で、吉田さんが撮りたい気持ちは同じ表現者として痛いほど分かっていたし、プロジェクトとしても残すべきシーンだとも理解していた。

あぁ、全てを叶える方法は本当に無いのだろうか?

いや…、絶対あるはずだ。



22時過ぎ。吉田さんにメールする。

「お互いが許す範囲で、お互いがいいものを創る為に提案です。完成する最後まで撮って下さい。私が撮られたくない(考えたい)時は、別の部屋で待機してもらい、大丈夫になったらまた呼びます。やるなら最後まで追ってほしいし、じゃないと伝わらない気がします。吉田さんの体力と時間が許される範囲で、一度ご検討くださいませ。」

最強に我が儘だ。

でもこれが私が心を絞りだして絞りだしてやっと得た、最小限の2人の境界だった。

吉田さんは普段すぐ返信をくださるけれど、なかった。その日に東京の仕事から帰られたので、疲れて寝てしまったのかも知れない。それはそれで、いいと思った。もし撮るべきだと神さまが告げるなら、きっと連絡がある。

そんな風に思って、私はまたぐんぐん制作を進めていった。



深夜1時を過ぎた。携帯が鳴る。

「由貴ちゃん、ありがとう!見つめ続けようと思ってるので、由貴ちゃんの言ってること理解済です。それでは今から行きます。気付くのが遅くなってごめんね!」

「了解です!お気をつけて!」



よし、やっぱり一緒に残すべきってことか!!

自分でも感じる、普段とは異色の放たれた "気" と緊張感に包まれながら、

『伝えるのも環境を整えるのも、生き抜くのも貫くのも、残すのも絵の完成も、全部、諦めてたまるか。』

そう想った。

そう誓った瞬間、もう心の波風は一切にして、姿を消していた。


a0236568_214822.jpg





明日は吉田亮人撮影レポートから「雀を描く」をアップします。
お楽しみに。

これまでの「退蔵院ふすま絵プロジェクト撮影レポート」はこちらから


Akihito Yoshida web siteへ
[PR]

by yoshida-akihito | 2013-10-12 17:12 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト


<< 壽聖院編その3 吉田亮人・撮影...      壽聖院編その1 吉田亮人・撮影... >>