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2013年 10月 13日

壽聖院編その3 吉田亮人・撮影レポート「雀を描く」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互に日刊でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今回は吉田亮人・撮影レポートから「雀を描く」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。



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2013年2月中旬。壽聖院の庭にある梅の木にピンク色の小さな蕾が付き始めた頃、村林さんは壽聖院・本堂襖絵の制作準備を始めた。

「本堂は仏様が祀られている場所です。そして檀家さん達が訪れ、先祖供養をされたり祈りを捧げる大切な場所です。ですので、仏様よりも目立つような絵、檀家さん達の心を乱したり圧倒する様な絵であってはいけません。そうではなく、訪れた人が心穏やかになるような、それでいて自然を感じる様なそんな絵を描いて下さい」

壽聖院住職・松山侑弘さんから村林さんに出されたのはこのような注文だった。
心穏やかになるような、自然を感じるような絵。
村林さんの制作はまずそれらをイメージしながら構想を練るところから始まった。
そして彼女自身も「人が人を想い祈る場所や時間に寄り添いたい、そしてそれぞれが想う大切な方々が豊かであってほしい」という想いを抱きながらイメージした。
そして次第に構想が練り上がり、形作られていった。
村林さんが出してきたもの、それは「雀」と「稲穂」だった。

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壽聖院住職・松山侑弘さん。背後に見えるのは制作時の村林さんを撮った写真

構想を描いたイメージラフには雀と稲穂が揺れるように描かれ、何やら色々なメモが書き込まれていた。
そのイメージラフを携えて村林さんは退蔵院副住職・松山大耕さんを前にプレゼンテーションを行った。
「雀」と「稲穂」がモチーフとして浮かんできた経緯、そしてそこにどんな想いを込めて描いていくのか、そんなことを丁寧に一生懸命話す村林さん。
その話に相槌を打ちながら、ラフスケッチをじっと見つめ聞く松山副住職。
一通り村林さんが話し終えると、松山副住職が口を開いた。

「ムラバ、田植えはしたことあるか?稲穂を描くんやったら実際に田植えからやって自分で育てながら観察したらええわ。頑張って描いてください」

壽聖院本堂に描かれるモチーフについて、既に壽聖院住職からも了承を得ていた村林さん。
それに引き続き、このプレゼンで松山副住職からも了承を得られた村林さんは「雀」と「稲穂」を本堂襖絵のモチーフとして描くことに決定した。
そしてこの瞬間、村林さんの新たな挑戦への第一歩が踏み出されたのであった。


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松山退蔵院副住職にプレゼンを行う村林さん


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まだ何も描かれていない壽聖院本堂の襖絵を前に約20分程でプレゼンは終了した


「吉田さん、スズメちゃん達描き始めたんですよ。見て下さい。とりあえず今200羽描くのを目標にしてます」

春ももうすぐそこまでという3月中旬、村林さんは何十mもあるロール紙に「雀」を描き出していた。
様々な動きをした雀が相当な数描かれている。それぞれの雀には「すずめちゃん87」とか「すずめちゃん88」という風に描いた順に番号がふられおり、あわせて日付も付けられている。(ちなみに後々、“すずめちゃん”から“鈴木さん”とか“近藤さん”という日本名から“ジョン”とか“キャサリン”といった英名まで一羽一羽の雀に固有名詞が付けられていくことになる)


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雀を描き始めたばかりの頃


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筆に全神経を集中させる


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輪郭だけ描かれた雀達


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100羽を超えた辺りからそれぞれに固有名詞が付き始めた。


「とにかく今は自分のイメージする様に描けるまで練習です」

と、にっこり笑顔を浮かべながら自分の描いた雀達を眺める村林さん。
彼女は雀を描くにあたって、餌付けを行って実際に自分の目で雀の動きやフォルムなどを観察したり、写真に撮ったりしていた。
また、雀の生態を記した“動物図鑑”や、インターネットで引っ張ってきた雀の写真なども参考にしながら雀のイメージの獲得に精を出していた。


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餌付けを行う村林さん


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壽聖院本堂で習作に励む


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描くのに慣れ始めると資料などを見ずとも想像で描くことができるようになってきた


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作業は深夜にまで及ぶことも


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庭を眺めながらしばしのおやつタイム


余談だが、近年その仕事が再注目され知名度を上げている「伊藤若冲」という江戸時代の絵師がいる。
鶏や野菜や植物など自然界の様々なモチーフを写実的に緻密に描くのを特徴とする若冲作品の独特の世界に魅せられた人も多いのではないだろうか。
以前テレビで若冲の作品を科学的な見地から読み解くというものをやっていたのだが、何気に眺めながら次第に番組に釘付けになってしまった。
高性能カメラを用いて若冲の作品の特定の部分をアップして見てみると、肉眼では確認できないほどの微細な線が信じられないぐらいたくさん描き込まれていることが分かったのだ。
それは本物をより本物以上に見せるための作業であり、彼の「命」への徹底した哲学の現れとも言えた。
しかし若冲がすぐにそこに行き着いたわけではない。モチーフが持つ命の息吹を感じ取るまで徹底的に観察し、見つめ続ける作業にかなりの時間を費やしたようだ。その見つめるだけの期間は1年にも2年にも及んだという。
そのように徹底した観察と技術と視点が、今にも動きそうな鶏や、手に取ることができそうな野菜を生み出したのだろう。若冲の作品の中には命を得た生き物達が躍動し、鼓動しているのを今見ても確かに感じる。

21世紀を迎えた2013年現在、若冲が絵を描き続け、没したこの京都で、同じ様に自然の命の息吹を感じ取り、それを絵の中に込めようとする若き絵師・村林由貴さん。
彼女は一体どんな世界を描き出すのだろうか。そして彼女自身がどのように変化していくのだろうか。
そんなことを想いながら、一羽一羽描かれていく雀達を見ていた。
もう少しで春に手が届く頃のことだった。


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壽聖院に咲く梅


明日は村林由貴・制作ノートから「雀のお話」をアップします。
お楽しみに。

これまでの「退蔵院ふすま絵プロジェクト撮影レポート」はこちらから


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by yoshida-akihito | 2013-10-13 16:02 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト


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