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2013年 10月 15日

壽聖院編その5 吉田亮人・撮影レポート「稲を描く・前編」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互に日刊でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今回は吉田亮人・撮影レポートから「稲を描く・前編」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。



吉田亮人・撮影レポート「稲を描く・前編」

薄雲が青空の中を気持ち良さそうに泳いでいる。ようやく寒さも和らぎ、清々しい新緑の季節を迎えた5月上旬。土の匂いと麗らかな陽気に包まれて僕はどこまでも広がる田園風景の中を僕の家族と村林由貴さんと歩いていた。
ここは滋賀県近江八幡市。
たっぷりと水が張られた田んぼが辺り一面広がり、太陽の光をキラキラと反射してまぶしい。今日はここで田植えをするのだ。


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「わたしたちが植えるところはここですわ」

そう言って案内して下さったのは退蔵院の檀信徒さんであり、役員でもある赤井さん。
実は毎年この時期になると退蔵院の檀家さんで結成される「退蔵会」が稲作を行う。その稲作が毎年この近江八幡市にある田んぼを借りて行われるのだ。赤井さんは退蔵会を代表して今回わざわざ僕達の案内役を買って出てくれたのだ。

「あの真っ正面にちょこっと見える島があるやろ。あれが沖島や。琵琶湖の中にある島で一番大きい島でな、人も住んでて小学校もあるんや。」

そう説明してくれたのは近江八幡に住む農家の吉田さん。(吉田という名字は全国で11番目に多い名字だそうで・・・)今回、この吉田さんに田植えの指導をしてもらう。


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一番右が赤井さん。真ん中が吉田さん。この2人が懇切丁寧に教えてくれた


「うん、大体この辺に植えてったらええわ。もう植えられるだけ植えたらええしな。あとはうちでダーっと植えっさかい」

そう言って、吉田さんが軽トラからでっかいブロック状になった稲苗を運んできてくれた。青々として元気の良さそうな苗。
それを村林さんがじーっと見つめる。


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そもそも今回なぜ田植えに来たのか。
それは村林さんが襖に「稲穂」を描くことに起因する。
稲の生育から行い、観察することで、稲に宿る命を自ら感じ、それを絵の中に本物の命として描き込むためである。
そうして図鑑や写真だけではどうしても感じることの出来ない感触を掴むのである。

「こうやって苗を3〜4本つまむようにして持つやろ。ほんで間隔を空けながらこうやって植えていくんや」

吉田さん自ら苗の植え方を見せて説明してくれるのを僕達はなるほどなるほどと相槌を打ちながら聞く。

「じゃあ、ちょっとやってみましょうか。もうどんどん植えていって下さい」

赤井さんがそう促すと僕達は裸足になって田んぼの中に入った。

「わ、きもちいい!!はははは」

入った瞬間、泥の何とも言えない感触に村林さんが声を上げて笑う。
泥の中は生暖かくて柔らかく、とても優しい感触がした。
僕の娘はその気持ち良さがすっかり気に入ったようで嬉しそうな表情を浮かべて田んぼの中を歩き回っている。


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「よし、じゃあ苗持って、その辺から植えていって」

吉田さんと赤井さんに言われて早速田植え開始。
ブロック状の苗床を左手に持ち、そこから3〜4本の苗を取って泥の中に植えていく。その作業を繰り返していくときれいな列となって稲苗が並んでいく。
ついさっきまではしゃいでいたのとは打って変わって村林さんも僕の娘も田植えに集中して作業を繰り返した。
それにしても機械がなかった時代、これを全て手作業でやっていたとは信じられない。そう考えると本当に便利で効率的な世の中になったものである。
ただ、いつの時代も天候に左右されながら収穫まで育て上げる苦労や収穫に伴う喜びは同じなのではないだろうか。
そんなことを考えながら目の前で黙々と植え続ける村林さんを見つめた。
彼女は一体どんな対話をしながら田植えをしているのだろう。


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「よしっ、もうそのへんまででええわ。あとはこっちで植えとくしな」

吉田さんのその一声で体を起こす村林さん。
腰を伸ばしながら何とも気持ち良さそうな表情をしている。
視線の先は、今しがた植えたばかりの稲苗に向けられている。
足跡だらけの田んぼに青々とした苗がしっかりと上を向いてその存在を静かに主張していた。今日ここで得た匂いや手触りや色は村林さんの中でどのように昇華され、作品に反映されていくのだろう。

「これ持って帰ってな、退蔵院に戻ってからもバケツで育てたらええ」

そう言って稲苗の束を村林さんに渡す吉田さん。

「わぁ、ありがとうございます。大事に育てます」

と、村林さん。稲苗を車に積んで、別れを告げこの日の田植えは終了した。

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明日も吉田亮人撮影レポートから「稲を描く・中編」をアップします。
お楽しみに。

これまでの「退蔵院ふすま絵プロジェクト撮影レポート」はこちらから


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by yoshida-akihito | 2013-10-15 20:33 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト


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