News

ysdaki.exblog.jp
ブログトップ
2013年 10月 17日

壽聖院編その7 吉田亮人・撮影レポート「稲を描く・後編」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互に日刊でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今回は前回と前々回に引き続き吉田亮人・撮影レポートから「稲を描く・後編」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。



吉田亮人・撮影レポート⑤「稲を描く・後編」

7月下旬。
京都の夏の風物詩、祇園祭が終了しいよいよ本格的に暑さが猛威を振るって京都中を包み込んでいた。
今年の夏はちょっと異常なくらい暑い、いや熱い。
朝も7時を回ると強烈な陽射しが照りつけ、気温を急上昇させていく。
その日も早朝から暑かった。暑さに打ちのめされながらのらりくらりと自転車を走らせ、退蔵院へ向かった僕は早朝から退蔵院の掃除をする村林さんにカメラを向けていた。


a0236568_13402987.jpg
モップがけをする村林さん


a0236568_13411543.jpg



a0236568_13405198.jpg
狩野元信作庭の枯山水を掃除する松山大耕副住職


a0236568_13413340.jpg
退蔵院にお勤めしている僧侶の鷲津くん


退蔵院本堂前にずらっと並べられた蓮の植木鉢からポコポコと花が咲き、庭園を彩っている。見事な大輪を咲かせた花達は実に優雅で美しい。暑さも忘れてその美しさに見とれていると、蓮の後ろに広がる苔庭に村林さんがシャワーホースを持って水やりを始めた。
ズラッと並ぶ蓮を前景に村林さんがもつシャワーホースから勢いよく水が飛び出る。
蓮、シャワーホース、飛び出る水、村林さんの位置、色、それら全てが揃った瞬間、一瞬の美がそこに生まれた。僕はそれに感動しながら急いでカメラを構えてあとはシャッターを切るだけだった。


a0236568_1411290.jpg



掃除が終わってからアトリエに移動すると長尺ロール紙が広げられていた。
そこにはいつもの様に稲が描かれていた。
その稲は頭を垂れた稲穂ではなく、青々と勢いよく繁るまだ若い稲だった。
その若い稲がずいぶん大きく、元気よく描かれていた。

a0236568_1432261.jpg


「襖絵の完成披露会は8月24日ですけど、それまでに実際の稲穂を見れないんですよ。それで今度高知に行って稲穂を見てこようと思ってるんです。沖縄、宮崎、高知などはこの時期に稲刈りを始めるみたいで」

と言う村林さん。確かに稲穂になるのを待っていたら8月24日の完成披露会には間に合わない。実際に自分の目で見てスケッチするにはこの時期から収穫を始める場所に行かなければ見ることはできないだろう。
そういえば僕の出身地・宮崎では超早場米といって、7月頃には収穫が始まる。台風を避けるために考案された方法らしく、2月や3月には田植えが始まる。高知も宮崎も沖縄も台風が多く到来し、温暖な気候という点で共通しているので、超早場米が定着した理由も納得である。
ということで、高知まで訪れてスケッチをしに行くという村林さん。
やるなあと感心しながら、僕はあることを思い出した。

それは自宅周辺を散歩していた時のこと。
僕の自宅は京都市の北の端っこにある。
この何年かで自宅周辺の山が切り拓かれ、住宅があれよあれよという間に建ち始め、閑静な住宅街の様相を呈している。
しかしそれでもまだ未開発の土地や、昔からこの地で農作を営んできた人達の所有する田畑が多く残り、のどかな風景が広がる。
もちろんそこには稲田がたくさんあるわけで、そこで育てられている稲はまだ若い青々としたものばかりだった。
しかし、そのたくさんの稲田の中でたった一つだけ穂がついている田んぼがあったのだ。
それはまだ充分に熟したものではなく、黄金色になるのはもう少し時間を要するものだったが、それでも穂がつき始め、その重みで頭を垂れ始めていた。
普段は気にも留めずに通り過ぎるそんな光景も、村林さんが「稲穂」をモチーフに描くと決めてからは自然と稲田が目に飛び込んでくる様になったのだ。

「そういえば、家の近くに穂がついてる田んぼあったんやけど、もしよかったら案内するし、スケッチする?」

その稲田のことを村林さんに説明すると、彼女の目がどんどん輝いていく。

「そんなところあるんですか?行きたいです!今日これから行っても大丈夫ですか?」

ということで、僕と村林さんは自転車に乗ってその若い稲穂に会いに行くべく自転車を走らせた。ちなみに妙心寺から僕の家までは自転車で20〜30分くらいのところにある。

a0236568_1412715.jpg


「吉田さんの家ってこんなに遠いんですか?こんなに遠い所をいつも自転車で来てたんですね。ありがとうございます」

額に汗を浮かべ、息を切らしながらもお礼を述べる村林さん。本当に律儀なこの人は今、暑さのせいで顔が真っ赤になっている。

「もうちょっとで着くし、頑張ってね」

と励ましながらようやく目的地の稲田に到着した。
果たしてそこに広がる稲を見た瞬間、村林さんの表情がパッと明るくなった。

「わ〜ほんまに穂がついてますね!うれし〜!このタイミングで見れるなんてきっと稲穂を頑張って書きなさいってことなんだと思います」

そう言いながら若々しい稲穂を触ったり観察して嬉しそうな表情を浮かべる村林さん。
そしてスケッチブックとペンを取り出して、道端にしゃがみ込み、早速スケッチを始めた。
見ては描き、見ては描きの作業を繰り返しながら、村林さんの目の前にある稲穂が次々とスケッチブックに写し取られていく。15分ほどで一枚描き上げ、また次のページに移る。
暑さも、時間が経つのも忘れてただスケッチすることに集中して、次から次へと稲穂のスケッチが積み重なっていく。そうした作業を炎天下の中、約3時間続けた。


a0236568_1642320.jpg


a0236568_1644525.jpg


a0236568_1653683.jpg
穂先に稲の花が咲いていた

a0236568_23232684.jpg


「ほんま、稲穂に会えて嬉しかったです。黄金色になる前の稲穂たちを見ることが出来たのもよかったなあ。今日はほんま満足でした。これで高知の稲穂たちに会うのが一段と楽しみになりました」

真っ赤な顔をしながらにこやかに笑う村林さん。
高知のたわわに実った稲穂のスケッチを終えた後は、また習作に励み、万全を期した状態で襖に筆を入れるという。

決して短くない時間をかけて「雀」と「稲穂」の習作を重ねに重ねてきた村林さん。
そうして彼女の中に貯め込まれ、少しずつ芽吹いてきたものがいよいよ襖の中に描き出される。
8月24日の完成披露会までもう1ヶ月を切っていた。


a0236568_1674460.jpg
鴨川沿いを自転車で駆けて帰る村林さん

明日は村林由貴・制作レポートから「稲のお話/前編・田植えとスケッチ」をアップします。
お楽しみに。

これまでの「退蔵院ふすま絵プロジェクト撮影レポート」はこちらから


Akihito Yoshida web siteへ
[PR]

by yoshida-akihito | 2013-10-17 23:31 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト


<< 壽聖院編その8 村林由貴・制作...      壽聖院編その6 吉田亮人・撮影... >>