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2013年 10月 18日

壽聖院編その8 村林由貴・制作ノート「稲のお話/前編・田植えとスケッチ」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互連載の形でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今回は村林由貴・制作ノートから「稲のお話/前編・田植えとスケッチ」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。


村林由貴・制作ノート③

『稲のお話/前編・田植えとスケッチ』
 絵・文 村林由貴


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2013年5月。

退蔵院壇信徒さまである赤井さんのご案内のもと、 私は吉田さんご家族と一緒に滋賀県にある水田へと向かっていた。

『襖に稲を描く』と決めた時、退蔵院松山大耕副住職から田植えの体験を勧められ、お米屋さんを営んでらっしゃる赤井さんへと、ご縁を繋いでいただいたのです。

現地では日に焼けた農家の吉田さんが(同じ“吉田”というお名前で、ご紹介の時には皆さん笑顔がこぼれました)、家の玄関の鉢に植えられた色とりどりのパンジーやチューリップと共に、歓迎してくださいました。

目の前に広がる水田風景。サンダルを脱ぎ、裸足で土へと向かう。
ぬるっとした生暖かい土は、所狭そうに足の指の間をくぐり抜けていった。

用意していただいていた、数センチの小さな苗。

「4つ位を束にして、このくらい間隔をあけて、植えていってください。」と、赤井さんが丁寧に、ひとつひとつの手順をやって見せてくださいました。私も赤井さんに続き、腰を下げ、手にした苗を土の中へとそっと植えてゆく。

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まだ小さ過ぎる苗はそれぞれに、葉が水面から出たり入ったりしていた。

なんて気の遠くなる作業。

今は勿論機械を使って行われるのだけれど、昔は皆が並んでこの作業を繰り返していたのだろう。想像を絶する大変さなのだと思う。
けれど一方で、一面に広がる畑のそれぞれに、その季節・時期になれば子からお年寄りまで多くの人が集まり、汗をかき声を掛け合う…そんな光景を思い浮かべると、勝手だけれど少し愛おしい気持ちにもなった。

「また刈り取りの時期に来たらええわ。自分らが植えた苗がどんな風になっとるか、見に来たらええ。」と、農家の吉田さんはいくつかの稲苗とご自身が育てられたエンドウ豆を袋に詰めて、私たちに持たせてくださいました。

「はいっ、是非来させていただきます!本当にありがとうございます。」



大地の恵みと人の温もりによって育くまれる、食物のいのち。
まだ小さな苗たちは、夏を越え秋を迎えどのような景色をここに運んでゆくのだろう。

必ずまた来ようと思った。
少しでも傍に、ほんものの世界に、近づきたかった。

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田植えから戻った私は、また新しいロール紙を広げだした。

今度は、その上で稲を育てていこうと思ったのだ。苗の絵から始まり、少しずつ葉が上に伸び、根本からどんどん茎が生え株が大きくなって…。色々な資料を見ながら、想像を膨らませていく。

田植えの時に頂いた苗は、退蔵院と壽聖院でバケツで育てていった。ぐんぐんと勢い良く成長する姿には驚くばかり。私も負けてられない…!!

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ある日、吉田さんが撮影にいらっしゃった時のこと。

吉「由貴ちゃん、俺ん家の近くの畑で1ヶ所だけ、もう穂がついてるところがあったよ!」
村「え!ほんまですか!?まだバケツ稲は葉だけですよ!?」
吉「そうやんなぁ。俺も見た他のところはまだやねんだけど、1ヶ所だけ、見つけてん!」
村「見たいです!!!!」
吉「案内するよ!いつがいい?!」
村「今日がいいです!!笑」
吉「オッケーオッケー!!笑」

と言う訳で、自転車をこぎ、いざ西賀茂へ。

到着すると、「ほんまやぁぁぁぁ~!!」って嬉しくて嬉しくて。
そこに見えるのは、青々と茂った葉と共に柔らかに顔を出し、小さな白い花をぽんぽんと身につけた穂たちだった。

早速、スケッチブックとペンを取り出して描き始めた。
暑くて汗だらだらで、道路につくお尻は燃えそうだったり、横を通り過ぎる車中の人にはきっと "変わってるな~" と思われたに違いない。気がつくと3時間も描いていた。



初めて目の前にした、稲穂の姿。


稲穂というのは、稲株の最後の葉っぱの中から出てくるらしい。私はそれを見たとき、トウモロコシが葉に包まれてある姿を連想した。

そんな小さく生まれたての稲穂は、照れくさそうに柔らかに、葉の隙間から顔を覗かせていた。



他にも色んな穂の姿がある。



穂は伸びきって天に向かって、日の光をめいっぱい浴びるツンと立つ稲穂。
白い花と共に、静かに華やかに揺れる稲穂。
重みで穂先が下に垂れ下がり始めた稲穂と、それに負けんとする稲穂。



ひとつひとつ一瞬一瞬が、まるで違う表情なのだ。



稲穂を見て、描いて、見て、描いて、見て…。

実際の稲穂で感じるボリューム感や、軽快さ、感触、穂の長さ、茎とのつながり、葉の生え方…と、画面に現れる姿と。



「全然ちゃう。」頭の中で、何度言ったことか。


穂にばかり意識が働けば、穂は異様に大きくなり、余計なボリュームを画面に与えた。
稲全体を俯瞰して見て、かつ繊細な配慮をも忘れたらあかん。

…など、描くとき・見るときの自分の癖を毎回見出し、それに絵が引っ張られぬよう注意を重ねていった。


そんな風な稲と私の対話は、ここに実際に来なければ得られないものだった。だからなるだけ描き留めることで、ここに在るものを持ち帰りたかった。

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夢中でスケッチするも、暑さを感じない訳にはいかない今日…。
途中で吉田さんが差し入れして下さった冷やしカルピスが美味しくて、カラカラの喉を潤してくれた。

村「吉田さんのおかげです!いいの描けました!来て良かったです…!」
吉「ほんまに!?よかった!絶対由貴ちゃんに言わな~!って思ってん!」



たとえ描くのはひとりでも、より良いものを創り出す為に、想いに賛同して色んな方がご縁を運んでくださっている。

だから『自分が描くものは、多くの方からできている』って、想うんだ。

そのあと。お昼ごはんを食べることさえ忘れていた2人は、近くのカフェで「あぁ、沁みるわぁ~~~。。」と言いながら、美味しいご飯を食べたのでした。

いつだって感謝の連続です。



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明日も村林由貴・制作ノートから「稲のお話・中編 /いざ、高知へ」をアップします。
お楽しみに。

これまでの「退蔵院ふすま絵プロジェクト撮影レポート」はこちらから


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by yoshida-akihito | 2013-10-18 21:04 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト


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