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2013年 10月 20日

壽聖院編その10 村林由貴・制作ノート「稲のお話・後編/ただひたすらに求めて」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互連載の形でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今日は前回と前々回に引き続き村林由貴・制作ノートから「稲のお話・後編/ただひたすらに求めて」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。



村林由貴・制作ノート⑤

『稲のお話/後編・ただひたすらに求めて』
 写真・文 村林由貴


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高知から戻った。
畑を離れる時に分けていただいた稲穂を、花瓶にさした。


目を閉じると今でも、一面に広がる黄金色の景色が浮かんでくる。

すぐに襖には描かなかった。まだ描き足りなかった。
高知で描いた2冊のスケッチブックに加え、京都でももう1冊描いた。

『よし、次は紙に墨で描く。』と思い、またせっせとロール紙を取り出した。

ペンで描くのと、筆と墨で描くのとは全く描き方が違う。
アウトラインだけで表現するのと、線や点が面と化して葉や穂を表現するのとは、全く別物である。

襖に描いているつもりで構図を考えながら、久々の墨と筆。


そう。また特訓の日々だ。

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8月10日。


私はスケッチブックとロール紙を広げて待っていた。
椿先生が覗きに来て下さる約束の日だった。

椿T「おぉ、前よりようなった!やっぱり、高知行って良かったなぁ。」

村 「はい、本当に行って良かったです。」

しかし、花瓶から垂れた本物の稲穂を見ながら、先生があることに気がついた。

椿T「むらば、今描いてる稲穂のサイズ、デカ過ぎひん? 現物か、このスケッチに描かれているサイズが、ちょうど綺麗じゃない? ほら、よう見てみ。」と。

村 「あ!確かに…。自分ではサイズダウンしたつもりでしたけど、現物と比べるとこの絵の穂の中身はきっとお米じゃなくて、小豆ですよね…(汗)!でも多分、前は大豆サイズでした…!(笑)」


椿T「うん(笑)。巨大やった(笑)。葉っぱも前はウインナーみたいやった!(笑) 見ながら、"なんか違うよな~おかしいな~"って(笑)。」


村 「ほんと(笑)。なんであんなでっかく描いてたんでしょう(笑)。よし!サイズダウンしておきます!」

そして、もうひとつ。

2人でスケッチを眺めながら、重要なアドバイスをいただいた。

椿T「むらば、もう一段階上にいこう。初めは想像だけで描いて、違うって思って高知行って、現物見て。今はまだ "写生" から離れてへん。ここから、自分の "様式" へと変えていくんや。狩野派の絵も、様式を創り出してるやろ? むらばが雀をものにしたように、稲も絶対、自分のものにできる。」

私はその意味をすぐに理解した。

そしてプロジェクトが始まった時からずっと、先生は私の力を私以上に信じてくださっているのを感じていた。この時もそうだ。
だから私も、絶対できるはずだって思えた。

村 「分かりました!サイズダウンと様式化、お任せください!!」

椿T「よし!次は13日に来るで。16日も来れるから。」

超多忙な先生が、こんなにも時間を割いてくださっている…。


挨拶をして別れた。

『なんとしても、稲穂を自分のものにして、襖絵に向かいたい。』

私が応えられるとすれば、感謝の想いを形にできるとすれば、何よりも、『いい絵を描く』ということだけなんだ。

完成披露会まで、あと2週間だった。



私はそのあと、狩野派や土佐派や…色んな資料を唸る様に見つめた。

「こういうことか!」と、察知してからの稲穂の絵は、生まれ変わった。

…と言っても、稲穂を描くにはまだ凄まじく己の神経を使った。
気を抜くとすぐに、デカ過ぎたり、余計なものを足したり、別のものになってしまう。

自分が注意すべき点を、常に意識できるようノートに書き留め、傍に置いた。

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描いて描いて描いたけれど…。
13日に先生が来たとき、2人の答えは同じだった。

椿T「いい感じや!前と全然違う◎でもあとちょっと、身体に馴染むまで、粘ろう。」

村 「はい。本当は今日OKもらうのが目標でしたけど、自分でもやっと掴めてきたところだと思います。16日は絶対、本番がイメージできる・完成形をお見せします!」

椿T「よしよし。今までこんなにもやってきたんやから、もう何も、焦るな。」

村「はい。…そうですね。大事にやります。」

椿T「よし。じゃあ、16日、お昼美味しいもんでも食べに行こう!」

村「やったーーーーーー!♪」

と、また気合いの芽がムキムキ。

焦っていないつもりでも、どこかに焦りを感じていた自分に気づき、私は胸を撫で下ろした。大事にしようよ、大丈夫だから、…って。

帰り際。

村 「先生、お忙しいのに何回もほんとにすみません。。」

椿T「そんなん全然ええ♪ 今は、大事な時や。」

村 「本当に…ありがとうございます。がんばります!!」

最高の師匠。私は幸せもんだ。



さぁ、諦めず。ここからが表現に豊かさと自由を運んで来てくれるのだ。
今もし諦めたり焦っては、あたしはゴミ野郎だ。

描き続けた。



…と、その時。


苦戦していたものが、ある瞬間から伸びやかに、風に舞い始める。
「きたっ!!!!」と、その変化に興奮しつつ、冷静さを備えて、私は筆を動かし続けた。

いける。見える。



8月16日。

蝉時雨が聞こえる中、壽聖院・本堂に2人。
お庭の方から差す真昼の光は、風に揺れる葉の影の微笑みも一緒に連れて来ていた。

20mに及ぶ草稿のロール紙を、2人で襖にあててみる。


そして、これからここに創り出される、襖絵の世界を想起した。




椿T「素晴らしい。最高。最高。… 、合格!!」


村 「やったーーーーー!!私ももう、襖に描けると思います!!やっと…!!長かったぁ。。」

喜びと、安堵の息が漏れた。

椿T「よしよし◎ほんま、ほっとする、いい場所になるなぁ…。」

村 「はい。私も、そう思います。」

もう大丈夫。イメージする景色がそこに、浮かんでいるから。


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村 「先生のおかげです。あの時、"焦るな"って言われて、はっとしました。粘って、ほんとによかったです。」

椿T「よしよし。良かった。ほな、カレー食べに行こう!(^o^)」

村 「やたーーーーー!!(^▽^。)お腹ぺこぺこです!(笑)」

美味しいカレーを食べて。いっぱい笑って。

その帰り際。

村 「先生、もう大丈夫です!次は完成披露会の24日ですね。お任せください!!」

椿T「よし!楽しみにしてるで!オレも頑張ろ~、創らねば~!!」

村 「はい!お互いファイトです!!」

固く固く、握手して。
気持ち清々しく、先生に手を振った。


さぁ。いよいよだ!!と、青い空を眺めて。
お腹も心も満たされきった私は、まだ真っ白な襖が待つ壽聖院へと戻った。

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心より感謝をこめて。



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明日は吉田亮人・撮影レポートから「ラストスパート・前編」をアップします。
お楽しみに。

これまでの「退蔵院ふすま絵プロジェクト撮影レポート」はこちらから


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by yoshida-akihito | 2013-10-20 12:00 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト


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