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2013年 10月 24日

壽聖院編その14 村林由貴・制作ノート「完成への道のり・後編」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互連載の形でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今日は前回に引き続き村林由貴・制作ノートから「完成の道のり・後編」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。


村林由貴・制作ノート⑦

『完成への道のり・後編』
絵・文 村林由貴


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「こんばんは。」と壽聖院の玄関の方から声がしたのは、8月24日を迎えた深夜1時半頃だったと思う。

私は本堂にいた。すぐ返事はできなかった。
玄関まで声を届けるには、大きめに声を出さなければならないからだろう。
その働きさえも絵に注ぎたくて、目の前の筆を進めていた。

気遣いまで感じる、廊下を歩く音。

吉田さんが顔を出した。

村「こんばんは。ありがとうございます。」

吉「こちらこそ。ごめんね、ありがとう。(作業を) 続けて、続けて。」

"ごめんね" と "ありがとう" 。
そこにはきっとお互いに、色んな想いがこもっていた。


私はピリピリしていたと思う。
苛立ちではなく、全神経をフルに使い、目には見えない結界でも張っているような気分だった。それが本当の一心不乱という姿なのかも知れない。

眠気を飛ばすため、イヤフォンから爆音をかけて描いていた気がする。
ともかく描いてた。その心は至って冷静に緊迫しつつ、真剣だった。

どうしても1人になりたい時には、
「吉田さん、30分休憩お願いします」と、2回ほど言った覚えがある。

あっという間に、朝方になっていた。



8月24日、午前6時半頃。

襖に舞う最後の一羽の雀を描き終えた。

そしてやっと壽聖院・本堂の襖絵全体に、雀と稲穂の姿が現れたのだ。

あとは誰か気づくか気づかないか位の、微細な表現を加えてゆくだけ。
いわゆる「仕上げ作業」だ。

村「あとちょっと。でも、眠過ぎて…瞼が落ちそう。。吉田さん、眠くないですか…?」

吉「眠い。(笑;) ちょっとだけ寝たら?このまま進めるより、パワーでるかもよ。」

村「そうかも。じゃぁちょっとだけ…。」

と、広い本堂の畳にくてんと横になる。
浮かび上がりつつあるその襖絵を眺め寝転ぶのは、最高に心地よかった。

閉じゆく瞼で視界は細く狭まりながら、心の中。
『あとほんの少し…』と、呟いた。

遠くで葉が風に揺れ、鳥の声が微かに聞こえてくる静かな朝だった。



午前7時半過ぎ。

仮眠をとった後、少しだけ描いた。
この日は本堂で大切な法要があり、8時半には片付け始める。

『ほぼ出来上がった状態での法要で、よかった…!』。
そう思い、畳に並べていた襖を元の場所に戻してゆく。

午前10時。法要が始まる。

吉田さんと私は、書院にて待機。
本堂から聞こえてくる、住職や檀信徒の皆様のお経を詠む声。木魚や鈴の音。お香のかおり。

私は本堂内に流れる空気や景色を想像した。

自分の絵が、そこに込めた魂が
お寺という場所や集まる方々と共にあり、生かされてゆく。

その有り難き幸せを、私はそっと胸にとめた。



眩しくもある朝の光で、明るさを増す書院のお部屋。

徹夜作業の末、朝食も忘れていた2人は急激にお腹が減り、近くにある定食屋さんへと向かった。

吉田さんは、あんかけうどん。私はカツ丼。

吉「お腹にドシっときそうやね。(笑)」

村「なによ~(笑)!カツやから、縁起がいいでしょっ!(笑)」

襖絵完成の道筋が見えほっとしたのか一旦の緊張は解け、よく笑ういつもの2人に戻っていた。

「はい、お待ちどうさん。」

出てきた、出てきた、ほかほかどんぶり。

美味しくって嬉しくって「幸せ~~~」と連呼してしまった。
後に吉田さんが撮ったその時の自分の顔を見ると、ほんとに幸せそうだった。

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綺麗に食べきって満腹で書院に戻り、次は眠気が…。

そのとき本堂では法要が続いていました。

私はラストスパートと18時に迎える完成披露会へのパワー注入のため、しばし眠ることにした。

2日ぶりに、お布団を出してくるまる。

その間も時折、吉田さんのカメラはカシャッと音を鳴らしていた。

すっぴんで髪ボサボサで眠そうな顔だったかも知れない…。

でも、吉田さんのカメラ越しなら“ もし大丈夫でしたらどうぞ〜 ” って思ってしまう。

なぜならそれは、この姿を人にどう見られるのか云々ではなく、
自分たちの表現の核とする 『生きる過程を残す』ため。

そこには綺麗に装った姿だけでは成立し得ない、今を生きるありのままの姿が在ると思うから。



私はお布団に包まれ心地よく、眠りに入った。

しばらくして目が覚めてくるりと見渡すと、離れたところに吉田さんが眠っていた。

パソコンにデータを読み込んで、力尽きてしまったらしい。

『吉田さん、ありがとうございます…。プロジェクトを追う写真家さんが吉田さんで、本当によかった。』

丸まって眠る吉田さんの背中を見ながら、沁みじみとそう思った。

襖絵の花たちも、優しく見守っているかのように感じた。

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徹夜作業のあと、疲れて眠る吉田さん。起こさないようiPoneでこっそり撮影。


14時半ぐらいだったと思う。

静かになった本堂で、私はまた襖へと向かい、吉田さんはシャッターをきり始めた。

すでに描いた稲穂の葉に、一筋の葉脈や濃淡などを与え丁寧に表情を深めていった。

吉田さんには申し訳ないけれど、身体を伸ばし線を一気に引く作業の手前には

「視界に入らない場所から、連写はなしでお願いします」


などと、注文をつけてお願いしたりもした。


そうして16時頃。

村「よし!完成…!!いいと思います!!」

吉「完成!?おめでとう!!」

村「はい!ありがとうございます!!」

私は喜んでピースしたりしていたと思う。

表現を通じてずっと見守られながら、共に頑張り続けて。
やっと迎えたこの完成の瞬間を一緒に喜び合えるなんて、どれだけ幸せなことだろう。

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昨晩のピリピリした私と、今この瞬間に放たれている私のオーラとではきっと、全くの別もの・別人なんだと思う。

どんな場所でもどんな時間でもどんな状況であったとしても、向き合ってくれた写真家・吉田亮人さん。

その吉田さんの表現の中に、写真という世界の中に無常たる姿かたちも・空気も気配も・音も光も色彩も…、瑞々しく生きてそっと封じ込められていた。

私にとってはそのどれもが、自分では知り得ることのなかった生きる姿だった。



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明日は吉田亮人・撮影レポートから「完成披露会と襖絵ツアー」をアップします。
お楽しみに。

これまでの「退蔵院ふすま絵プロジェクト撮影レポート」はこちらから


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by yoshida-akihito | 2013-10-24 12:00 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト


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