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2013年 10月 28日

壽聖院編18 村林由貴・制作ノート / 番外編「カエルちゃんと私」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互連載の形でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今日は村林由貴・制作ノート・番外編として「カエルちゃんと私」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。


村林由貴・制作ノート/番外編

『カエルちゃんと私』
絵・文 村林由貴


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最後の制作ノートは、番外編として『カエルちゃん』にまつわるお話を。

私が初めてカエルの絵を描いたのは、2013年4月16日のことでした。
壽聖院・本堂の襖絵に雀を描くべく、2月末から約2ヶ月間にわたりロール紙にただひたすら雀を練習し続けていた日々。


さすがに疲れ、ちょっと息抜きに別のものを…と描き始めたのが、意味も無く思いつくまま描き出した半紙シリーズ。
そこにひょんと現れたのが一匹のカエルちゃんでした。

その子は制作ノートの挿絵で描いている雰囲気とは違い、「カエルどん」とでも言いたくなる様な、どしっとしてムチムチした蛙。しかもハエ的な虫を食べようと狙っている。

「へんな絵…!笑;」と思った。鼻で笑ってしまった。

でもそんな風に、自分の絵を見てプククっと笑えること自体がこれまであんまり無かった気がする。

「おもろいな〜、失敗しても、別になんでもええわ〜♪」

と思いながら、他のモチーフも数枚描いて。
また「もっぺん蛙、描いてみよう!」と、生まれて来たのが2代目ガエル。

「あ。1匹目よりちょっと可愛く描けた!♪」
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   ↑元祖カエルどん 
  蛙に蟲図/4月16日筆

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   ↑二代目カエルくん
  藤に蛙図/4月17日筆
そう思い始めると、もっと手なづけたくなるのが私の心情らしい。
けれどパッと横を見ると、雀が私を呼んでいて。
「いかんいかん、逃避はいかん。」と思い、またロール紙での制作に戻った。


ある日、椿昇先生がいらっしゃった時のこと。

「お〜、雀がんばったなぁ。」とロール紙を見ていただいたその横で、

「あっ、先生!これ気分転換で描きました。笑」と、半紙の絵もこそこそと並べてみる。他の方の目にどんな風に映るのか、見当がつかなかった。

すると

「むらば、これめっちゃええやん!」

と、先生が嬉しそうに、

「これ、コレ、これ、コレ。ほら、みてみ?いい感じじゃない?」

と、10枚程の中から4枚を選び、並べ直してくださったのだ。

そこにはあの2匹の蛙の姿も。

「ほんとうですか?!先生がそんな風に言ってくださるなんて、全然思っていませんでした…!自分では、いいのかよくわかりません…笑。でも、ありなのですかねぇ…?笑」

私は大学生の頃から、「作品」とか「完成度」とか抜け目無く綿密に意識して絵に取り組まねば…!と思っていた節があった。

けれどこの半紙の絵はそういった意識もなんにもなく突然に表れ、また受け入れてもらえたことに、私は驚いたのだ。

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大学院修士2回生の時に描いた、カエルの双子の女の子。同じ「カエル」でも、今とは全然違う。


「むらば、この半紙の絵が生まれたのはやっぱり、雀をこんだけ練習してきたからやなぁ。だからフッと気の抜けた絵が生まれて、またピシッとした絵も描いて…。前までは、買い物とか他の事をしな、気分転換できひんかったやろ? けどこうやって色んな表現ができれば、絵だけで気分転換できるようになる。もう24時間絵を描き続けられるで。」

なるほど…!確かにそうかもしれない。だとしたら嬉しい。
時には気楽に描くのも許されるんだ…。
もっともっと描いてみたい。知らない表現に出会いたい。

なんだか少し、自由になれる気がした。

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半紙版、雀と稲穂たち。5枚1組。襖絵とは別のタッチで描いた。


それから、気分転換が必要な時は半紙シリーズを描いた。

カエルが幾度も現れるようになる。

描き方はどんどん単純化し、マルとテンとヘの字で顔が完成して、身体も骨やら間接やらを気にせず、好きなように伸び縮みできた。

「おもろ〜♪ 君は釣り中やね。君はおとぼけやねぇ。」

「一杯どうでっか?」「わてら酔っぱらってまへんえ〜。」

私が息抜きで蛙を描く様に、気がつくとカエルたち自身もくつろいでいた。

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どんどん生まれてくる能天気なカエルたちは、
「まぁええやん。そんな力まんと。」
「お日様の光はあったかくて気持ちいし、時には風にのるんも、だいじよ?」

と、喋りかけてくれるかのようだった。
いやきっと、私がそう思いたかっただけなのかも知れないけれど。

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カラフルなカエルたち。ハンコは消しゴムを彫刻刀で削って作成。



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カエルや雀の他にも、いろいろ描きました。



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半紙シリーズは5月16日から7月初旬まで時折描き、計130枚ほどになった。



7月11日。
8月に高知県へ稲穂を見に行くことを決心した、その翌日のこと。

それまで稲穂の練習画に明け暮れていた私は、「よし、一旦気分転換しよう!」と思い、余っていたロール紙を広げ始めた。
半紙ではなく、より大きく広い画面で自由に描いてみたくなったのだ。

「描くで〜〜〜〜♪」と筆を持ち、カエルたちをどんどん描いてゆく。
葉の上のカエルちゃん。お喋りしたり、踊ったり、ジャンプしたり、はしゃいだり。色んな子たちを気のむくままに。
空を見上げればふわふわと、手をつないで飛んでいる。

「さぁ、みんなで手を繋ごう♪」。

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この頃、退蔵院では鉢に入った蓮の花が沢山並んでいた。
私は朝のお掃除の時に、その鉢からカエルの鳴き声や姿を見かけることがあった。

「あぁ、この綺麗な蓮と一緒にカエルたちを描きたいなぁ。」

そう思って生まれたのがラストシーン。
蓮池の中、寝転がったり、伸びをしたり、遊んだり。どの子もとっても気持ちがよさそう。

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「極楽だなぁ。君たちの世界は。
 でもウチらも、そんな風に感じられる場所や心があるはずやよねぇ。
 だって君らは、ウチの心と身体を通じて、生まれてきてくれたんやもんね。」

この絵が襖絵の作品に直接関係あるのかなんて、別にいい。
私はただ、描くのを愛して続ける為に、ちょっぴり必要な時間だったんだと思う。
進むために必要な絵なら、回り道に感じても描くべし!
それでまた、ほかの絵も頑張れたから。

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1週間で、ロール紙20mぶん生まれたカエルたち。


8月。
高知県で稲穂のスケッチをして戻り、いよいよ襖絵に向かおうという時。
私は文房具屋で小さなメモとカラーペン4色を買った。

そして壽聖院に帰ると、お手洗いにある棚にそれらを置いてみた。
トイレに座っている間は、気分転換になる絵を描こうと思ったのだ。笑;

今は根詰めて襖絵に向かう時だし、気分転換に出掛ける暇も無い。
だからここでは少しの間だけ、一息つけるように…と。

サササっと、カエルの絵と言葉を綴った。絵に言葉をつけるのは久しぶり。
中学・高校の時はイラストレーターになりたくって、よく書いてたなぁ…。

このメモに書かれたカエルたちは、私の喋り相手でもあった。

カエルが原っぱで寝そべっていたり前向きなことを言えば、私も癒されたり気合いが入ったり。疲れた顔でため息を吐くカエルを描けばまた、疲れたなぁと一緒に呟いて。
メモを閉じた時にはまた元気になっていた。

共感相手や分身とでも言うのだろうか。
私はいつの間にかピンチな時こそ彼らを求めて描いていて、きっとその存在に心救われていた。



小さなメモ/カエル日記より

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↑8月24日。壽聖院・本堂を描き上げた日、このメモも最後のページを迎えた。




村林さんと交互連載してきたこのレポートもいよいよ明日で最後となります。明日は村林さんとともに「終わりに」と題して最後の交互連載レポートを締めくくりたいと思います。
お楽しみに。

これまでの「退蔵院ふすま絵プロジェクト撮影レポート」はこちらから


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by yoshida-akihito | 2013-10-28 12:00 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト


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