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カテゴリ:退蔵院ふすま絵プロジェクト( 35 )


2014年 01月 19日

退蔵院・雪景色

1月19日、日曜日。
まだ夜も明けきらぬ早朝、妙心寺・退蔵院へ。
雪化粧で染まった退蔵院庭園を撮影しました。
一年に1〜2度しか見ることが出来ないそうです。
もう、その美しさたるや。
日本の美ここにありです。


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by yoshida-akihito | 2014-01-19 21:35 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト
2013年 10月 29日

壽聖院編19 『終わりに。そして始まりに向けて』

僕と村林さんとで交互連載の形で18回に渡ってお送りしてきた、『壽聖院編レポート』も今回で最後になりました。
今日は『終わりに。そして始まりに向けて』と題して、僕と村林さんでこの『壽聖院編レポート』を振り返りつつ、僭越ながら皆さんにメッセージを送らせて頂きたいと思います。



『終わりに。そして始まりに向けて』


この度、壽聖院・本堂の襖絵完成というひとつの区切りを迎え、写真家・吉田亮人さんと共にこのレポート・ノートに書き留められたこと、本当にありがたく感じています。

私自身のことを言うと、これまで制作過程の裏側というのはあまりお話できずにいました。
すぐには言葉にできなかったり、まずは絵にして想いを実らせたいといった想いから、出会いや感動も葛藤も心の中に留めて、それを大きな糧にしていました。

2年半の間にあったかけがえの無いエピソードや感謝の想いは、もっともっと山のようで語り尽くせません。

けれど、今回のお話でその一端の内からでも、創造の過程や、人と人とが向き合う姿、ぬくもり、生きる力など少しでも感じていただけましたら本望です。

吉田さんとは、出会ってから約1年半が経ちました。
その間、吉田さんが撮影されたプロジェクトのお写真は既に2万枚にも及ぶそうです。
きっとそこにはお互いの変化が軌跡となり重ねられていて、今後も変わり続けるのだと思います。

まだまだ先の長いプロジェクトとなりますが、みなさまには引き続き温かく見守っていただけますと幸いです。
いつかまた沢山の方と笑顔で素敵な時間を過ごせますよう、私も今を精進して参ります。

長くなってしまいましたが…、
最後迄ご覧いただき、本当にありがとうございました。

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退蔵院・絵師 村林由貴
 



あれは9月中旬くらいだっただろうか、鴨川を自転車で駆けながら仕事へ向かっていると、電話が鳴った。村林さんからだった。

「吉田さん、今大丈夫ですか?あの、吉田さんがこの前送ってくれた撮影レポートあるじゃないですか。あれ読んで、私も裏・撮影レポート書こうと思ったんですが・・・」

壽聖院の襖絵を完成させた区切りとして今ここで制作過程を振り返り、自身の感情や制作する過程で起こった出来事をまとめ、見守って下さる多くの方にお知らせしたいとの村林さんの想いからだった。

「おお、それ面白い!俺もそれ読んでみたいわ~!」

ということで、村林さんのその提案はすぐに実行に移される事になり、早速レポートのやり取りが始まった。
村林さんと僕との2つの視点で襖絵制作の過程をあぶり出す作業は思った以上に楽しい作業だった。
それと同時にスリリングな作業でもあった。
自分自身の姿が村林さんにどう映っていたのかをここで改めて知る事ができたからだ。
彼女から送られてくる文章を読む度に、ああ、こういう風に感じてたんだなと嬉しくなったり、反省したり、様々な感情が僕の中を駆け巡った。

文章もそうだが、毎回彼女から送られてくるイラストを見るのもとても楽しみだった。
彼女のメッセージは全て絵の中に込められていたと言っても過言ではない。
あぁ、この人の「言葉」は絵なんだなとイラストを見る度に思った。

村林さんがその「言葉」に込めたメッセージは「感謝」だった。

「このプロジェクトは色んな人の支えと想いがあってはじめて動いています。私はそれを最後のアンカー役として受け取って、襖に絵を描かせてもらってるんです。」

そんな言葉を村林さんの口から何度か聞いたことがある。
彼女はそのことを常に念頭に置きながら誰よりも一番重く受け止め襖に向かっているのだろう。
だから孤独な表現の世界での闘いに妥協もしないし、負ける事もない。
自分が多くの人の想いに支えられて絵が描けることを村林さんは本当に身に沁みるほど理解しているのだと思う。


襖絵プロジェクトはこれからいよいよ第二ステージへと向かう。

「どんなん描くか、私もまだ分かりません」

と言っていた村林さん。
村林さん自身もまだ見えていない光景がこれからどのように立ち上がってくるのか、僕は写真を通して引き続き見つめていきたい。
そして、その光景の一部を見守って下さる皆さんにもお裾分けできたらいいなと思っている。

ひとまず、壽聖院編のレポートはこれで終わり。
お付き合い下さった皆さん、本当にありがとうございました。
そして引き続き、退蔵院編の「撮影レポート」もレポートしていくのでお楽しみに。


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壽聖院襖絵完成後の2013年9月11日、稲刈りへ。
5月に植えた稲苗達が育ち、見事な穂を実らせていた。

吉田亮人


皆さん『壽聖院編レポート』に最後までお付き合い下さってどうもありがとうございました。
そしてこれからも襖絵プロジェクトの応援の方、どうぞよろしくお願い致します。

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by yoshida-akihito | 2013-10-29 12:00 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト
2013年 10月 28日

壽聖院編18 村林由貴・制作ノート / 番外編「カエルちゃんと私」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互連載の形でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今日は村林由貴・制作ノート・番外編として「カエルちゃんと私」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。


村林由貴・制作ノート/番外編

『カエルちゃんと私』
絵・文 村林由貴


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最後の制作ノートは、番外編として『カエルちゃん』にまつわるお話を。

私が初めてカエルの絵を描いたのは、2013年4月16日のことでした。
壽聖院・本堂の襖絵に雀を描くべく、2月末から約2ヶ月間にわたりロール紙にただひたすら雀を練習し続けていた日々。


さすがに疲れ、ちょっと息抜きに別のものを…と描き始めたのが、意味も無く思いつくまま描き出した半紙シリーズ。
そこにひょんと現れたのが一匹のカエルちゃんでした。

その子は制作ノートの挿絵で描いている雰囲気とは違い、「カエルどん」とでも言いたくなる様な、どしっとしてムチムチした蛙。しかもハエ的な虫を食べようと狙っている。

「へんな絵…!笑;」と思った。鼻で笑ってしまった。

でもそんな風に、自分の絵を見てプククっと笑えること自体がこれまであんまり無かった気がする。

「おもろいな〜、失敗しても、別になんでもええわ〜♪」

と思いながら、他のモチーフも数枚描いて。
また「もっぺん蛙、描いてみよう!」と、生まれて来たのが2代目ガエル。

「あ。1匹目よりちょっと可愛く描けた!♪」
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   ↑元祖カエルどん 
  蛙に蟲図/4月16日筆

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   ↑二代目カエルくん
  藤に蛙図/4月17日筆
そう思い始めると、もっと手なづけたくなるのが私の心情らしい。
けれどパッと横を見ると、雀が私を呼んでいて。
「いかんいかん、逃避はいかん。」と思い、またロール紙での制作に戻った。


ある日、椿昇先生がいらっしゃった時のこと。

「お〜、雀がんばったなぁ。」とロール紙を見ていただいたその横で、

「あっ、先生!これ気分転換で描きました。笑」と、半紙の絵もこそこそと並べてみる。他の方の目にどんな風に映るのか、見当がつかなかった。

すると

「むらば、これめっちゃええやん!」

と、先生が嬉しそうに、

「これ、コレ、これ、コレ。ほら、みてみ?いい感じじゃない?」

と、10枚程の中から4枚を選び、並べ直してくださったのだ。

そこにはあの2匹の蛙の姿も。

「ほんとうですか?!先生がそんな風に言ってくださるなんて、全然思っていませんでした…!自分では、いいのかよくわかりません…笑。でも、ありなのですかねぇ…?笑」

私は大学生の頃から、「作品」とか「完成度」とか抜け目無く綿密に意識して絵に取り組まねば…!と思っていた節があった。

けれどこの半紙の絵はそういった意識もなんにもなく突然に表れ、また受け入れてもらえたことに、私は驚いたのだ。

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大学院修士2回生の時に描いた、カエルの双子の女の子。同じ「カエル」でも、今とは全然違う。


「むらば、この半紙の絵が生まれたのはやっぱり、雀をこんだけ練習してきたからやなぁ。だからフッと気の抜けた絵が生まれて、またピシッとした絵も描いて…。前までは、買い物とか他の事をしな、気分転換できひんかったやろ? けどこうやって色んな表現ができれば、絵だけで気分転換できるようになる。もう24時間絵を描き続けられるで。」

なるほど…!確かにそうかもしれない。だとしたら嬉しい。
時には気楽に描くのも許されるんだ…。
もっともっと描いてみたい。知らない表現に出会いたい。

なんだか少し、自由になれる気がした。

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半紙版、雀と稲穂たち。5枚1組。襖絵とは別のタッチで描いた。


それから、気分転換が必要な時は半紙シリーズを描いた。

カエルが幾度も現れるようになる。

描き方はどんどん単純化し、マルとテンとヘの字で顔が完成して、身体も骨やら間接やらを気にせず、好きなように伸び縮みできた。

「おもろ〜♪ 君は釣り中やね。君はおとぼけやねぇ。」

「一杯どうでっか?」「わてら酔っぱらってまへんえ〜。」

私が息抜きで蛙を描く様に、気がつくとカエルたち自身もくつろいでいた。

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どんどん生まれてくる能天気なカエルたちは、
「まぁええやん。そんな力まんと。」
「お日様の光はあったかくて気持ちいし、時には風にのるんも、だいじよ?」

と、喋りかけてくれるかのようだった。
いやきっと、私がそう思いたかっただけなのかも知れないけれど。

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カラフルなカエルたち。ハンコは消しゴムを彫刻刀で削って作成。



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カエルや雀の他にも、いろいろ描きました。



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半紙シリーズは5月16日から7月初旬まで時折描き、計130枚ほどになった。



7月11日。
8月に高知県へ稲穂を見に行くことを決心した、その翌日のこと。

それまで稲穂の練習画に明け暮れていた私は、「よし、一旦気分転換しよう!」と思い、余っていたロール紙を広げ始めた。
半紙ではなく、より大きく広い画面で自由に描いてみたくなったのだ。

「描くで〜〜〜〜♪」と筆を持ち、カエルたちをどんどん描いてゆく。
葉の上のカエルちゃん。お喋りしたり、踊ったり、ジャンプしたり、はしゃいだり。色んな子たちを気のむくままに。
空を見上げればふわふわと、手をつないで飛んでいる。

「さぁ、みんなで手を繋ごう♪」。

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この頃、退蔵院では鉢に入った蓮の花が沢山並んでいた。
私は朝のお掃除の時に、その鉢からカエルの鳴き声や姿を見かけることがあった。

「あぁ、この綺麗な蓮と一緒にカエルたちを描きたいなぁ。」

そう思って生まれたのがラストシーン。
蓮池の中、寝転がったり、伸びをしたり、遊んだり。どの子もとっても気持ちがよさそう。

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「極楽だなぁ。君たちの世界は。
 でもウチらも、そんな風に感じられる場所や心があるはずやよねぇ。
 だって君らは、ウチの心と身体を通じて、生まれてきてくれたんやもんね。」

この絵が襖絵の作品に直接関係あるのかなんて、別にいい。
私はただ、描くのを愛して続ける為に、ちょっぴり必要な時間だったんだと思う。
進むために必要な絵なら、回り道に感じても描くべし!
それでまた、ほかの絵も頑張れたから。

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1週間で、ロール紙20mぶん生まれたカエルたち。


8月。
高知県で稲穂のスケッチをして戻り、いよいよ襖絵に向かおうという時。
私は文房具屋で小さなメモとカラーペン4色を買った。

そして壽聖院に帰ると、お手洗いにある棚にそれらを置いてみた。
トイレに座っている間は、気分転換になる絵を描こうと思ったのだ。笑;

今は根詰めて襖絵に向かう時だし、気分転換に出掛ける暇も無い。
だからここでは少しの間だけ、一息つけるように…と。

サササっと、カエルの絵と言葉を綴った。絵に言葉をつけるのは久しぶり。
中学・高校の時はイラストレーターになりたくって、よく書いてたなぁ…。

このメモに書かれたカエルたちは、私の喋り相手でもあった。

カエルが原っぱで寝そべっていたり前向きなことを言えば、私も癒されたり気合いが入ったり。疲れた顔でため息を吐くカエルを描けばまた、疲れたなぁと一緒に呟いて。
メモを閉じた時にはまた元気になっていた。

共感相手や分身とでも言うのだろうか。
私はいつの間にかピンチな時こそ彼らを求めて描いていて、きっとその存在に心救われていた。



小さなメモ/カエル日記より

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↑8月24日。壽聖院・本堂を描き上げた日、このメモも最後のページを迎えた。




村林さんと交互連載してきたこのレポートもいよいよ明日で最後となります。明日は村林さんとともに「終わりに」と題して最後の交互連載レポートを締めくくりたいと思います。
お楽しみに。

これまでの「退蔵院ふすま絵プロジェクト撮影レポート」はこちらから


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by yoshida-akihito | 2013-10-28 12:00 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト
2013年 10月 27日

壽聖院編17 村林由貴・制作ノート「襖絵ツアー」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互連載の形でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今日は村林由貴・制作ノートから「襖絵ツアー」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。



村林由貴・制作ノート⑨

『襖絵ツアー』
絵・文 村林由貴


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2013年8月25日。

今日から『8日間限定・襖絵ツアー』が始まる。

1日3回(10-12時、13-15時、15-17時 )行い、参加者は各15~30名。

昨年度は月に1度の開催だったけれど、今回は完成披露という意図を踏まえぎゅっと凝縮して行うこととなった。

ツアーの前半は、退蔵院にて松山大耕副住職がお寺やプロジェクトについてのご説明と、お庭拝観。
そのあと壽聖院に移動して、松山侑弘住職が壽聖院についてのお話を。
残り後半となる約1時間が、私からのご案内となる。

それぞれの襖絵の説明の中、私は描いた当時の心境などもお話させていただいた。

お寺に行くと、過去に描かれた襖絵の絵柄の意図や説明・絵師の略歴などが記されていることが多い。

『じゃあ、絵師が生きて目の前にいるからこそ聞けることって、何なんだろう…。』

自分でそう問うた時、絵に込めた意図は勿論、その背景にあった描き手の気づきや、葛藤や挑戦、過程を話すことにも意味があるんじゃないかと思った。

進むことは、闘いでもあったから。

それを乗り越えゆく軌跡が絵と共に表れ、その変化にこそ、このプロジェクトの意義があった。


そうした想いから今回は、襖絵だけではなく雀の練習画のロール紙や、稲穂のスケッチなどをも通じて変化の過程をご覧いただくことに決めた。


「こんなに雀に表情があるなんて、知らなかったわぁ。」
「この子かわいい〜。」
「最初と最後、全然違う!」

など、色んな声が聞こえてきた。

見つめられる絵も、自分の世界でやすらいながら喜び微笑んでいたに違いない。



ツアー期間の間、一日という時間の流れがとても早く感じた。
沢山の方と出会い、励まされ、"退蔵院完成でまたお会いしましょう!" と約束をして。

がんばって伝えられた。今日もすごく嬉しかった。明日もがんばろう。

毎晩の夜は早く、緊張が解け電池が切れたかのように、私はすやすやと眠っていた。


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半年間にわたった壽聖院・本堂の襖絵制作。

その道のりには、かけがえの無い出会いやご協力や励ましがあった。
だからこそ今の自分がいて、今の表現があるのだと想う。

まだそこに立ち上がったばかりの世界の中、人と過ごした時間。人を想う時間。

描かれた絵たちはこれから先もこの場所で、人と共にあり景色と共に、ここにいてくれるのだろうか。

誰かの歩みの片隅で、ほんの少しだけでもひと時でも、寄り添えたら嬉しい。


本堂で一人静かに襖絵を眺めていた時のこと。

『あぁ。ここに表れたのは、私の祈りでもあったんだ…。』

そう気づいた。
それは私が今まで絵を描いてきて、初めて感じた想いだった。



これから先、退蔵院・方丈襖絵64面の制作へと向かってゆく。

正直今は何を描くのかも分からないし、どうすればその日が来るのかも分からない。きっと近道なんてない。時間がかかるかも知れない…。
でも例えそうだとしても、なんとかなるし、私はなんとかするんだろう。

絵は出来る時に出来上がる。ただ、それだけ。
先に辿りつけるのは、諦めなかった人だけだ。

そう想うようになったから。


また一歩、歩んでいこうと思う。
大切なものは自分で守り、抱きしめながら。


たくさんの出会いとご縁とその想いに、感謝と敬意を込めて。


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壽聖院・本堂の襖絵の中で、一番最後に描いた雀




明日は村林由貴・制作ノートから番外編「カエルちゃんと私」をアップします。
お楽しみに。

これまでの「退蔵院ふすま絵プロジェクト撮影レポート」はこちらから


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by yoshida-akihito | 2013-10-27 12:00 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト
2013年 10月 26日

壽聖院編16 村林由貴・制作ノート「完成披露会」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互連載の形でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今日は村林由貴・制作ノートから「完成披露会」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。


村林由貴・制作ノート⑧

『完成披露会』
絵・文 村林由貴



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8月24日。18時。

完成披露会。

私は出来たてホヤホヤの絵を見つめながら、ドキドキして待っていた。

翌25日からは8日間限定の襖絵ツアーが始まる。

その前日である今日は、『いつもお世話になっている方々に、一番最初にご覧いただきたい。』という副住職と私の願いから、先生、職人さんなど関係者の皆さまと私の両親が、駆けつけてくださるのだ…。


「緊張して先に覗きに来てしまった!!」

と、退蔵院・松山大耕副住職と椿昇先生が一足先に。

「今さっき、ちゃんと完成できましたよ~~!!(笑)」

と、私。

本堂に向かうお二人を、後ろからひょこりと追いかけた。

副 「おぉ!…えぇわぁ~。ほんまに。… 落ち着きますなぁ。」

椿T 「おぉ!よしよし。えぇなぁ、完成したなぁ。ほんまようやった!!」

…と、喜んでくださって…、うれしい。笑顔がこぼれる。

ほかの皆さんの声も、玄関から聞こえてきた。

私は駆け寄った。

「こんばんは」と、それぞれに運んで下さる優しい笑顔と、"お疲れさま" や "おめでとう" のお声がけに心がぬくもりながら、"ありがたいな" "伝えたいな"って、思うほかなかった。



本堂に皆さんが揃い、壽聖院・松山侑弘住職がお寺のご説明をなさったあと、

「襖絵の感想を、まだ村林さんにも言っていなかったのですが…」

と続いた。

どきっとする私…。

壽「実は今朝早速、この本堂で大切な法要がありました。今までは真っ白だった襖に新しい絵が描かれた中、普段通りに集中できるのかどうか心配だったんですけれど…。実際は何の違和感もなく、落ち着いて行うことができました。こちらの要望にも応えて、質素なモチーフで素晴らしい絵を描いてくれたと思います。」

私は初めて聞いたご住職の感想に、じんとした。

そして、

壽「私は例えが下手ですが、書院の襖絵が "焼き肉"なら、本堂の襖絵は "おすいもの" のようです。そういった村林さんの表現の変化や幅も、楽しんでご覧頂けたらと思います。」とも。

すごくぴったりな例えとその流れに、私も皆さんも笑った。

どこのどんなお寺でも、その時のご住職の人柄や働きによって、お寺の呼吸も雰囲気も変化するのだと思う。

もし壽聖院の住職が別の方だったら、私の表現もまたきっと違っただろう。

今ある壽聖院は私にとって、日だまりのような温かさと・穏やかな静けさと・我にかえる時間とが流れる、そんな安らぎの場所に感じていた。

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次は私の番。

ご挨拶と共に、襖絵について話し始めた。

初めて語る、本堂への想い。
言葉にするにはきっと、まだまとまっていなかったり、つたなかったと思う。

それでも皆さん見守るような眼差しで、真剣に耳を傾けてくださっていた。


あとには雀や稲穂の練習画を広げ、喋ったり軽食を食べながら楽しい時間を過ごした。

椿T 「練習画の最初の方の雀は、アジの開きみたいやったもんなぁ(笑)」

村 「先生ひどーい!(笑) 確かにギラギラしてましたけど…!(笑)」

と、皆で練習画のロール紙を囲み、眺めて笑ったり。


襖絵制作で使用する様々な筆を調達していただいている、筆屋さんの『中里』・中里勝会長は

「線が変わったなぁ。びっくりした。筆もよう使てくれてるわ。」…と。

私はその嬉しいお言葉を聞きながら、
お会いする度に会長が

「筆が必要やったらいつでもゆうてや!こんなんがいいとかあったら、今ウチに無いもんは頑張ってつくるさかい。」

と、勇気づけて下さったことや、

「絵師と共に育つ道具屋でありたいと思っています。」

と、 中里文彦社長がおっしゃってくださった時のこと、初めて中里さんを訪ね、色んな種類の筆に触れ、試し書きをした時のことなど、

…様々な記憶が巡っていた。

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紙、硯、墨、筆、表具、胡粉、建具…。

それぞれを創り出す職人さん方、お寺を守る人、支える人、
描く人、伝える人、見つめる人、次へと繋ぐ人…。

沢山の方々が関わって、このプロジェクトは育ってゆく。

ひとりひとりとの忘れられないエピソードや感謝の想いは、ここには全然全然書ききれないけれど…。

私はそうやって色んな方の背中を見て励まされて、その熱い魂に追いつきたくて、心を決めて、描き続けて、

今日という日を迎えられたのだと思う。

そしてこの時この場所に流れていた空気も、共に過ごした時間も、
私も、ここを包む襖絵も、空間もぜんぶ、

人のぬくもりの中にいました。

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いつもご指導くださる椿昇先生と、完成披露会にて。


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8月1日。新しい筆を持って雨の中かけつけてくださった、中里文彦社長と。




明日も村林由貴・制作ノートから「襖絵ツアー」をアップします。
お楽しみに。

これまでの「退蔵院ふすま絵プロジェクト撮影レポート」はこちらから


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by yoshida-akihito | 2013-10-26 12:00 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト
2013年 10月 25日

壽聖院編15 吉田亮人・撮影レポート「完成披露会と襖絵ツアー」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互連載の形でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今日は吉田亮人・撮影レポートから「完成披露会と襖絵ツアー」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。



吉田亮人・撮影レポート⑧「完成披露会と襖絵ツアー」


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2013年8月24日。
夕闇が辺りを包み、空がピンク色に染まり始めた頃、村林さんは慌ただしく動き回っていた。
これからたくさんの方をお迎えして完成お披露目会が行われるからだ。

つい今しがた出来上がったばかりの襖絵は夕刻の陽に照らし出されて、黄金色に輝いていた。
まだ人が来る前の静かなひととき、僕はその襖に描かれた稲穂と雀を眺めながら数時間前のことを反芻していた。

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披露会を前に慌ただしく準備する村林さん。



「いいと思います!」

その声が完成の合図だった。
「やった〜」と言わんばかりの満面の笑みを浮かべながら、出来上がったばかりの襖絵を愛でる様に眺める村林さん。その表情はまるで我が子を慈しむ母親の表情のようだった。
村林さんがこの襖絵を生み出すために登ってきた道のりを遠目で見てきた僕も人一倍嬉しかった。
それと同時に村林さんの手を離れたこの襖絵達がこれから多くの人の目に触れ、どんな感情をもたらすのだろうとも思った。
それは表現者として嬉しくもあり、怖いことでもある。
兎にも角にも、今夜多くの人が完成したばかりのこの襖絵達に会いにくる。
彼らがこの風景と出会った時、彼らの心にどんな風が吹くのだろう。
完成の余韻に浸る村林さんを眺めながらそんなことを思いつつ、完成直後に多くの人に見てもらえるこの襖絵達は何て幸せなんだろうと思った。



「おお!いいなあ!」
「素晴らしいですね」
「ようやったなあ!」

完成披露会に駆けつけた多くの人が、出来上がったばかりの襖絵と対面しそんな言葉を漏らした。
徹夜続きできっと体力的にはヘロヘロの村林さんも、駆けつけて下さった多くの方の想いに感謝しっぱなしの様子で、弾ける様ないい表情をしていた。

「いやぁ、ここ最近なかなか来れずに申し訳なかったんだけど、ほんといいのできたね。すごいよ」

と、ライターの近藤雄生さんが言う。 近藤さんはこれまで一緒に襖絵プロジェクトの取材を行ってきたライターさんだ。

「由貴ちゃん、また一つ階段を上ったね。いや、これほんといいね」

近藤さんも襖絵プロジェクトを長く見つめてきた者としてこの襖絵の完成にいたく感動しているようだった。
襖絵を前に近藤さんと二人で話していると、

「近藤さん、吉田さん、いつもお世話になっております。どうもありがとうございます。」

と僕達に声をかけて下さる二人がいた。
村林さんのご両親である。

「あ、どうも!この度はおめでとうございます」

ご両親とはこれまで何度かお会いしていて久しぶりの再会だった。
しかし村林さんの口からご両親のお話を度々聞いていたので、久しぶりに会ったのだけれど、久しぶりな感じがしなかった。

「大丈夫かなぁって心配してたんですけどね、皆さんに支えてもらったおかげです。ありがとうございます」

深々と頭を下げ、そう言うご両親。
しかし村林さんが完成まで漕ぎ着ける事ができたのは、多分にご両親の力が大きい。
村林さんの制作が佳境に入り、寝ずや食わずやの生活続きになった時、実家の兵庫からわざわざ差し入れを持ってきて、制作の邪魔になるといけないからと用件を済ませるとすぐに帰った話を村林さんから聞いたことがある。
その他にも何かとご両親の気遣いを感じるエピソードがいくつもある。

「あの子はやると決めたらやるんですけど、無理しすぎちゃうところもあるので」

そう言いながら、等身大の我が子の姿をしっかりと陰で見守りながら力添えをされるこのご両親の気遣いに感動するのだった。



「線がいいなあ。むらば、ええの描きよったなあ。」

退蔵院副住職松山大耕さんが感嘆の声を上げながら、襖絵を眺めている。

「おぉ、ほんまようやった。これやこれ。バッチリ、バッチリ」

現代美術家で京都造形大学学科長の椿昇先生も愛弟子の作品に労いの言葉をかけていた。

「あいつはな、やれ言うたらできよるんや。それはなかなかできるもんじゃない。やっぱあいつはそれだけの力持っとるし、それを活かすために練習を怠らへん。雀もどんだけ描くんやってぐらい描いてたやろ。こっちが言った以上の事をあいつはやりよるからなあ」

椿先生のこの言葉の中にこの襖絵が誕生した全ての要素が詰まっていると思う。
半年以上の時間をかけ、ひたすら練習に明け暮れた日々。
その日々が襖の中に立ち上がり、今多くの人の心の中に風を呼び起こしている。
僕はその風が吹く光景を眺めながら、村林さんの姿を見つめた。
黄金色の稲田を吹き抜ける、清々しくて心地良い風が村林さんを包んでいた。




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完成披露会は壽聖院住職・松山侑弘さんの説明から始まった。



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完成したばかりの襖絵を鑑賞する表具師の物部さん。プロジェクトで使用する襖は全て物部さんの仕事によるもの。



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「雀」や「カエル」など練習してきた長尺ロール紙を広げる椿昇先生。その左は表具師の物部さん。



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ロール紙と襖絵を村林さんの足。



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習作「雀」を鑑賞する。



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退蔵院副住職・松山大耕さん(右)と椿昇先生(左)



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(株)中里の中里会長ご夫婦と村林さん。村林さんが使用する「筆」は全て中里さんの会社で作ってもらっている。



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椿昇先生と村林さん。



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完成披露会が終わり、帰り際、椿先生とハイタッチ。「むらばようやった!」との椿先生の一言が響いた。



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完成披露会が終わり、皆さんを送り出した後、幸せそうな表情を浮かべる村林さん。




【襖絵ツアー】
8月25日から8日間連続で行われた襖絵ツアー。1日に3回、ツアー参加者の皆さんをお迎えして行われました。




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ツアー参加者に壽聖院の概要を説明する壽聖院住職・松山侑弘さん。



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ツアー参加者に壽聖院の庭の説明をする壽聖院住職・松山侑弘さん。



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壽聖院本堂の襖絵の説明をする村林さん。



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壽聖院書院の襖絵の案内をする村林さん。



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長尺ロール紙に描いた習作を鑑賞するツアー参加者の皆さん。



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8日間連続で、一日に3回行われた襖絵ツアー。この日のツアーが終わりホッと一息つく松山住職と村林さん。




明日は村林由貴・制作ノートから「完成披露会」をアップします。
お楽しみに。

これまでの「退蔵院ふすま絵プロジェクト撮影レポート」はこちらから


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by yoshida-akihito | 2013-10-25 12:02 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト
2013年 10月 24日

壽聖院編その14 村林由貴・制作ノート「完成への道のり・後編」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互連載の形でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今日は前回に引き続き村林由貴・制作ノートから「完成の道のり・後編」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。


村林由貴・制作ノート⑦

『完成への道のり・後編』
絵・文 村林由貴


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「こんばんは。」と壽聖院の玄関の方から声がしたのは、8月24日を迎えた深夜1時半頃だったと思う。

私は本堂にいた。すぐ返事はできなかった。
玄関まで声を届けるには、大きめに声を出さなければならないからだろう。
その働きさえも絵に注ぎたくて、目の前の筆を進めていた。

気遣いまで感じる、廊下を歩く音。

吉田さんが顔を出した。

村「こんばんは。ありがとうございます。」

吉「こちらこそ。ごめんね、ありがとう。(作業を) 続けて、続けて。」

"ごめんね" と "ありがとう" 。
そこにはきっとお互いに、色んな想いがこもっていた。


私はピリピリしていたと思う。
苛立ちではなく、全神経をフルに使い、目には見えない結界でも張っているような気分だった。それが本当の一心不乱という姿なのかも知れない。

眠気を飛ばすため、イヤフォンから爆音をかけて描いていた気がする。
ともかく描いてた。その心は至って冷静に緊迫しつつ、真剣だった。

どうしても1人になりたい時には、
「吉田さん、30分休憩お願いします」と、2回ほど言った覚えがある。

あっという間に、朝方になっていた。



8月24日、午前6時半頃。

襖に舞う最後の一羽の雀を描き終えた。

そしてやっと壽聖院・本堂の襖絵全体に、雀と稲穂の姿が現れたのだ。

あとは誰か気づくか気づかないか位の、微細な表現を加えてゆくだけ。
いわゆる「仕上げ作業」だ。

村「あとちょっと。でも、眠過ぎて…瞼が落ちそう。。吉田さん、眠くないですか…?」

吉「眠い。(笑;) ちょっとだけ寝たら?このまま進めるより、パワーでるかもよ。」

村「そうかも。じゃぁちょっとだけ…。」

と、広い本堂の畳にくてんと横になる。
浮かび上がりつつあるその襖絵を眺め寝転ぶのは、最高に心地よかった。

閉じゆく瞼で視界は細く狭まりながら、心の中。
『あとほんの少し…』と、呟いた。

遠くで葉が風に揺れ、鳥の声が微かに聞こえてくる静かな朝だった。



午前7時半過ぎ。

仮眠をとった後、少しだけ描いた。
この日は本堂で大切な法要があり、8時半には片付け始める。

『ほぼ出来上がった状態での法要で、よかった…!』。
そう思い、畳に並べていた襖を元の場所に戻してゆく。

午前10時。法要が始まる。

吉田さんと私は、書院にて待機。
本堂から聞こえてくる、住職や檀信徒の皆様のお経を詠む声。木魚や鈴の音。お香のかおり。

私は本堂内に流れる空気や景色を想像した。

自分の絵が、そこに込めた魂が
お寺という場所や集まる方々と共にあり、生かされてゆく。

その有り難き幸せを、私はそっと胸にとめた。



眩しくもある朝の光で、明るさを増す書院のお部屋。

徹夜作業の末、朝食も忘れていた2人は急激にお腹が減り、近くにある定食屋さんへと向かった。

吉田さんは、あんかけうどん。私はカツ丼。

吉「お腹にドシっときそうやね。(笑)」

村「なによ~(笑)!カツやから、縁起がいいでしょっ!(笑)」

襖絵完成の道筋が見えほっとしたのか一旦の緊張は解け、よく笑ういつもの2人に戻っていた。

「はい、お待ちどうさん。」

出てきた、出てきた、ほかほかどんぶり。

美味しくって嬉しくって「幸せ~~~」と連呼してしまった。
後に吉田さんが撮ったその時の自分の顔を見ると、ほんとに幸せそうだった。

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綺麗に食べきって満腹で書院に戻り、次は眠気が…。

そのとき本堂では法要が続いていました。

私はラストスパートと18時に迎える完成披露会へのパワー注入のため、しばし眠ることにした。

2日ぶりに、お布団を出してくるまる。

その間も時折、吉田さんのカメラはカシャッと音を鳴らしていた。

すっぴんで髪ボサボサで眠そうな顔だったかも知れない…。

でも、吉田さんのカメラ越しなら“ もし大丈夫でしたらどうぞ〜 ” って思ってしまう。

なぜならそれは、この姿を人にどう見られるのか云々ではなく、
自分たちの表現の核とする 『生きる過程を残す』ため。

そこには綺麗に装った姿だけでは成立し得ない、今を生きるありのままの姿が在ると思うから。



私はお布団に包まれ心地よく、眠りに入った。

しばらくして目が覚めてくるりと見渡すと、離れたところに吉田さんが眠っていた。

パソコンにデータを読み込んで、力尽きてしまったらしい。

『吉田さん、ありがとうございます…。プロジェクトを追う写真家さんが吉田さんで、本当によかった。』

丸まって眠る吉田さんの背中を見ながら、沁みじみとそう思った。

襖絵の花たちも、優しく見守っているかのように感じた。

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徹夜作業のあと、疲れて眠る吉田さん。起こさないようiPoneでこっそり撮影。


14時半ぐらいだったと思う。

静かになった本堂で、私はまた襖へと向かい、吉田さんはシャッターをきり始めた。

すでに描いた稲穂の葉に、一筋の葉脈や濃淡などを与え丁寧に表情を深めていった。

吉田さんには申し訳ないけれど、身体を伸ばし線を一気に引く作業の手前には

「視界に入らない場所から、連写はなしでお願いします」


などと、注文をつけてお願いしたりもした。


そうして16時頃。

村「よし!完成…!!いいと思います!!」

吉「完成!?おめでとう!!」

村「はい!ありがとうございます!!」

私は喜んでピースしたりしていたと思う。

表現を通じてずっと見守られながら、共に頑張り続けて。
やっと迎えたこの完成の瞬間を一緒に喜び合えるなんて、どれだけ幸せなことだろう。

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昨晩のピリピリした私と、今この瞬間に放たれている私のオーラとではきっと、全くの別もの・別人なんだと思う。

どんな場所でもどんな時間でもどんな状況であったとしても、向き合ってくれた写真家・吉田亮人さん。

その吉田さんの表現の中に、写真という世界の中に無常たる姿かたちも・空気も気配も・音も光も色彩も…、瑞々しく生きてそっと封じ込められていた。

私にとってはそのどれもが、自分では知り得ることのなかった生きる姿だった。



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明日は吉田亮人・撮影レポートから「完成披露会と襖絵ツアー」をアップします。
お楽しみに。

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by yoshida-akihito | 2013-10-24 12:00 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト
2013年 10月 23日

壽聖院編その13 村林由貴・制作ノート「完成への道のり・前編」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互連載の形でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今日は村林由貴・制作ノートから「完成への道のり・前編」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。


村林由貴・制作ノート⑥

『完成への道のり・前編』
絵・文 村林由貴


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2013年8月16日、夕刻。

襖を畳に並べ始めた。それは私にとって久しぶりの「襖」という画面。
壽聖院・書院2部屋の襖絵は、2012年10月末に完成していた。
思い返せばそれから約10ヶ月もの間、襖には描いていなかったのだ。
ただ、その変わりに現れたのは、沢山積まれた練習画の半紙やロール紙たちだった。

『うん。大丈夫。これでもかと言うほど、私は練習したやん。いつもの調子でやればいい。』

そう思い、深呼吸。

硯に擦れる墨の音。流れゆく静かな時間。広がってゆく、墨の香り。
そのどれもが愛しくて。
私はゆっくりとその空気に、溶け込んでゆく…。



壽聖院の玄関を上がり本堂に行くまでには、8面の襖が横並びに続いている。
私は本堂内の襖絵に取り組む前に、まずはその8面を描こうと思った。

本堂の世界へと向かう、序章である。

雀たちを描いた。

柔らかに温かに、彼らが笑い、楽しくお茶目に話しをしながら、在るように。
雀の頭を「かわいいなぁ」と撫でるような感覚で描いていった。

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『うん、うん。この調子。』

ロール紙に重ねてきた鍛錬が、いま襖の上で実ろうとしている。
描き上げてゆく度に、現れた喜びと、次々に湧き上がるイメージを描きたくてしょうがない静かな興奮との中にいた。

そして8月18日。

いよいよ、壽聖院・本堂の襖20面へと向かい始めた。

24日に控えている “襖絵完成披露会” まで、残すところあと1週間のことだった。



今思うと、それからの一週間は怒濤の様だった。
眠過ぎて涙が出だすと、筆を置いて、眠る。
あとは食べる以外は、ひたすらに描く…!!といった生活だった。

時間ではなく、体力の限界が基準。日にちの境目もよく覚えていない。

私はまず、西側の襖から順に『雀』を描いていこうと思った。
『稲穂』は雀が見え始めてから描こう、と。

それまで透明だった雀の一羽一羽が、だんだんと形を成して生きてゆく。
描いている時は、私と雀との対話だけ。そこに焦りも迷いもいらない。

『絵は、出来る時に出来上がる。ただ、それだけ。』そう想った。



8月21日、夕刻。

襖に舞う『雀』たちが生まれ始めた。

その夜から、『稲穂』も共に描いてゆく。

一瞬の気の許しもいけない。硬くなってもいけない。
穏やかであって緊張感を絶やさず、全神経を使って、描く。
それがその時の私の、稲穂の描き方だった。

実物の稲穂や注意点を書き留めたノートは、相変わらず傍から離さずにいた。

一発描きをするには、頭の中で、そこに描く稲穂の姿が見えていなければならない。
『見えてくるまで、待て。』そう言い聞かせた。

その次は手の動き・描き順・過程の全てをイメージして、身体を宙で動かしてみる。
2つが合わさって初めて、画面に墨を落とせるのだ。

稲穂の絵は、実際に襖に描いている時間や作業は少なくても、そのイメージを形創るのに時間がかかった。
そしてそれは、ひとりにならなければできない作業だった。

そんな過程を繰り返し経て、稲穂がひとつずつ画面に現れてゆく…。



堂内に差し込む日の光は夕焼けとなり黄色く柔らかく、西側の襖数面を照らしている。
まだそこに生まれたばかりの雀たちは、より嬉しそうにより心地よさそうに、飛んでるように見えた。


気がづけばもう、23日の夕刻だった。


『世界を立ち上げるにはまだ道は長い』。


けれど時はただ刻一刻と、翌24日の完成披露会へと迫っていた。

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明日も引き続き村林由貴・制作ノートから「完成への道のり・後編」をアップします。
お楽しみに。

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by yoshida-akihito | 2013-10-23 12:00 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト
2013年 10月 22日

壽聖院編その12 吉田亮人・撮影レポート「ラストスパート・後編」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互連載の形でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今日も吉田亮人・撮影レポートから「ラストスパート・後編」と題してお送りします。
是非多くの方にご覧頂き、プロジェクトの過程を辿りながら何かを感じて頂ければ幸いです。


吉田亮人・撮影レポート⑦「ラストスパート・後編」

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天井を見つめて寝転がっていた。
薄暗い部屋には逃げ場のない熱気がギュウギュウに押し込められて、とにかくそれが肌にまとわりついて気持ち悪い。
たまらずエアコンのスイッチを入れると、冷たくて爽やかな空気が送り込まれてきてそれと一緒に澱んだ空気も仕方なく動き出す。

「吉田さん、今からちょっと一人で描きたいです。なので、向こうの書院に行っててもらっていいですか」

村林さんからそう告げられた僕は書院に移動してきたのであった。
向こうの部屋では村林さんが「稲穂」を描いているのだろう。その姿を見たいなあと思ったが、それはしょうがない。
何だか「鶴の恩返し」でこちらの部屋を覗いてはいけませんと言われたお爺さんみたいだなあと思いながら天井を見つめた。
「鶴」は一体どんな風にして「稲穂」を描いているのだろう。

どれくらいの時間が過ぎたかは分からないが突然、

「よしださーん、いいですよー」

という声が聞こえて本堂に戻るとそこには「稲穂」が描かれていた。
柔らかい風になびきながら優しい陽に包まれているようだった。その上を雀が数羽飛んでいる。それらは稲穂の匂いに誘われてきたのか、それとも稲穂を食べにやってきたのか、稲穂と戯れながら飛んでいるようだった。

「最後、この襖一枚に雀を描いて、その後あそこの稲穂をもう少しだけ描き足して完成です」

そう言って襖を取り外し、雀を描き始める村林さん。しかしさすがに少し疲れてきたのか、あくびが出てきて、つられて僕もあくびをする。

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時計を見るとちょうど5時を回ったところだった。
それでも手を動かすことをやめずに筆を入れていく。
そうして最後に描かれたのはどこかへ向かって、しかし確実な意志を持って飛び立っていく雀だった。
その雀を近くでじーっと見つめたり、遠目に見たりして何度も確認する村林さん。
そして意を決した様に「よし」と言った。
外を見ると白く明るみ始めていた。ちょうど夜が明けた頃だった。

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「吉田さん、ちょっと仮眠しましょう。今から1時間だけ」

雀を描き終えた村林さんからそんな提案が出された。
僕も何だか意識が朦朧としてきたところだったので、そうしようそうしましょうということで僕と村林さんは本堂の畳の上に寝転がった。
大方完成を迎えた襖に囲まれて横になると自分が今本当に黄金色の稲田の中に抱かれているようだった。そのすぐ上空を雀がお喋りしながら遊んでいる。
そんなことを想像していると気持ちよくなってきて僕はすぐに眠りに落ちた。

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眠りから覚めると、外は一層白さを増して明るくなっていた。
柔らかな光に照らされた襖は仮眠前に見たのとはまた少し印象が違った。
村林さんも起き出し、縁側に出て空を眺めている。
僕も同じ様に静かな朝の空を眺めた。
そうやってしばらくボーッと過ごした。

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足つぼ健康マッサージを踏み踏みして気合い注入中。


そして村林さんは制作時にいつもつけているエプロンをつけると最後の襖を取り外し、筆を描き足していった。
これが最後の手入れになる。
村林さんの表情は夜に比べると幾分柔らかい。
もう完成は間近だ。
彼女の一つの仕事がここで終わる。

「どうもおつかれさま」

心の中でそうつぶやきながら僕は村林さんにカメラを向け続けた。

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明日は村林由貴・制作レポートから「完成への道のり・前編」をアップします。
お楽しみに。

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by yoshida-akihito | 2013-10-22 21:35 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト
2013年 10月 21日

壽聖院編その11 吉田亮人・撮影レポート「ラストスパート・前編」

【はじめに】
絵師の村林由貴さんが先日、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵を完成させました。
今回、妙心寺・壽聖院本堂の襖絵が完成するまでの半年間の軌跡を、僕と村林さんの両方向の視点から約20話に渡って交互連載の形でレポートしていきます。
そうすることで、襖絵制作の過程と舞台裏を多面的に深く知って頂けるのではないかと思っています。
また同時にプロジェクトに関わる多くの人達の想いと、それを受け取りながら成長していく村林さんの姿を感じて頂ければ嬉しいです。
今日は吉田亮人・撮影レポートから「ラストスパート・前編」と題してお送りします。
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吉田亮人・撮影レポート⑥「ラストスパート・前編」

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「吉田さん、わかりました。お互いが許す範囲でお互いいいものを作るためにわたしの提案です。〜中略〜 撮るなら最後まで追って欲しいし、そうでないと伝わらない気がします。ラストスパートを長く見つめるということでお願いします。」

村林さんからこのメールを受け僕は8月24日になったばりの深夜1時、妙心寺・壽聖院へと自転車を走らせた。
猛暑続きの京都は夜になってもまだ暑く、ねっとりとした空気が夜を覆う。
妙心寺に到着すると、すっかり闇夜に包まれた境内に街灯がポツンと立っていて、そこだけ闇夜を切り裂く様に石畳を照らし出している。
その街灯に導かれる様に進んでいくと、壽聖院が見えてきた。
自転車を止め、空を見上げると街の灯りのせいか、ほんのりと薄く黄色いモヤがかかっている。
何だか妖怪か幽霊でも出そうな雰囲気だ。
いや、もしかしたら本当に出るかもしれない。
なぜならば今ここで襖にかじりついて絵を描く村林さんの放つ気が、そういうものを寄せ付けないとも限らないからだ。
そしてそいつらはきっと悪さをするんじゃなくて、村林さんが新しく描く風景がどんなものかを静かに見守りに来るのではないだろうか。

僕もそのうちの一人として完成までを見届けるべく、壽聖院の中に入っていった。
煌々と本堂の灯りがついている。
村林さんがこの中で今まさに闘っているのである。

僕は玄関の戸を開け、スルリと中に入った。

「こんばんは」

と一応言ってみるが、物音一つしない。
なるべく音を立てない様にそろそろと本堂の方に向かうが、板床がギシギシと音を立てる。
そして本堂に繋がる戸の所まで行き、意を決してガラッと開けると果たして村林さんがそこに居た。

「あ、どうも。ありがとうございます」

僕に気付くとそう言って笑顔を浮かべる村林さん。
しかし緊張感のある表情をしている。
目が異様にギラギラしていて、緊迫したオーラを放っていた。
それはいつもの彼女とは明らかに違う種類の、他を寄せ付けないものだった。
それを感じただけでも、今彼女がどれだけ神経を研ぎ澄ましながら制作に向かっているのかが分かった。

「吉田さん、稲穂を描くのってすごく集中力を使うんです。その時は一人で集中して描きたいんです。その時は声をかけさせてもらいますので、向こうの部屋で待っててもらえますか」

最初に彼女からそう申し出された。
僕は頷いた。
ここから村林さんと僕の長い一日が始まった。

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本堂にズラッと並べられた襖絵達。
そこには気持ち良さそうに飛ぶ雀達が描き込まれていた。
村林さんが頭の中にイメージし続けた雀達。
習作に習作を重ねてようやく襖に描かれた雀達。

「あと少しで自分が思い描く様に描けるようになると思います。それまでは何回も何回も何回も描いて、体に馴染ませるんです」

そう言っていた村林さんが襖の上に再現したかった世界はこれだったのかと思った。
襖の中を気持ち良さそうに飛び回る雀達はどれも楽しそうに謳っているようで、この世に生を授かって生きていることへの賛歌のようだった。

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そう思いながら、まだ未完の作品に必死に筆を入れ続ける村林さんに僕はそっとカメラを向けた。
ファインダー越しに彼女の姿を見つめながら、僕は目の前にいる村林さんのこの姿を一体どのタイミングで、どんな角度から、どれくらいの距離で、何を入れて何を排除して画面を構成すれば村林さんという人間の放つ魂が写真に閉じ込められるのだろうと考えた。

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いや、もしかするとそうやって考えること自体が無意味なのかもしれない。

そんなことよりも感応することだ。

村林さんの魂に僕の心が感応するままにシャッターを切ればいい。
村林さんが襖に一筆一筆入れる度に、彼女の心の中では小さな動きが起こっているはずだ。
その動きに僕は感応すればいいだけだ。
そう思いながら村林さんの姿をただただ見つめ続け、心が感応するに任せてシャッターを切った。

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夜は静かに、しかし緊迫感を保ったまま過ぎていった。
村林さんは左手に筆を持ち、下書きせずにそのまま襖に筆を入れ続けている。
何も描かれていなかった襖にこうやって絵が描かれるだけで、そこに一つの世界が生じる。
この無から有が生じる作業自体に僕は何とも言えない不思議さを感じるのだ。
思えば宇宙も無から生じたというではないか。
僕達人間だって、無の中からそれぞれが生まれ出てきたわけだ。
人間だけじゃない。この世を創り出している全ての光景が無から生じたものだ。
そしてそれらは一時的にこの世に有形のものとして存在し、いつか必ず無に帰していく。
きっとそれが命というものなのだろう。
そしてその命は「無」という大きな流れの中でグルグルと渦巻きながら新たな命となってこの世に仮の姿を借りて美しく、儚く生きる。
村林さんが今、襖の中に描き出している世界もきっとその大きな命の流れからやってきたものであり、彼女はそれをきちんと誕生させるべく使命を担った人なのだろう。
彼女が白い襖に筆を入れるごとにそこに命の風景が立ち上がってくるのであった。


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安土桃山時代の武将・石田三成家の菩提寺として名高い壽聖院。三成の肖像画をはじめ、石田家面々の肖像画が並ぶその下の襖を仕上げ、取り付ける村林さん。


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バケツ栽培中の稲を本堂に持ち込んで、時折触りながら制作を進める村林さん。


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明日は吉田亮人・撮影レポートから「ラストスパート・後編」をアップします。
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by yoshida-akihito | 2013-10-21 12:00 | 退蔵院ふすま絵プロジェクト